ピアーズと。:03
初めて見る街に俺はきょろきょろと周りを見回しながら歩く。 その隣にちょっぴり不安げな顔のピアーズがいる。 リハビリは今日はお休みだ。担当医のジョニーさんに言うと二つ返事で了承してくれた。いい人だ……ジョニーさん……!
「こういうちゃんとした街、俺歩いたこと無いから何だか新鮮だなぁ……」
アフリカは欠陥住宅だし、あの時はマジニだらけで観光とかそういう事なんて出来なかった。 そもそも俺自身何であそこにいるのか訳が分からなくてそんな事考えてる暇なんてなかったし。 実験で生まれたからこういう街なんて知識として知ってるくらいで、実際歩くのは本当に初めてだ。
キラキラと目を輝かせながら、街灯や色鮮やかな看板を眺めた。
「……ナツキ、あんまりふらふらしてると――」
「うぉあぁあ!!?こけ、こけ……うぶっ、」
「遅かったか……」
足元の注意が散漫になったせいで、小さな段差に気付かなかった。 爪先が段差に引っかかり、二、三歩、よろめいて何とか体勢を整えようとしたが、結局こけた。 べしょりと鼻頭を打ち、菜月は痛みにほろりと涙を零す。そんな菜月の背後でピアーズが呆れたようにため息を吐いた。
「……ほら、ナツキ」
目の前に差し出されたのはピアーズの手。
「こんなんじゃ隊長に追いつくのは何十年先になるんだろうな?」
「……いやいやいや、俺、やる時はやるんだからね!!」
ぺしんと叩く様にピアーズの手に菜月は手を重ねた。 いて、なんてピアーズはあからさまな反応をしながらも、菜月を引っ張ってくれた。
「ははは!鼻、赤くなってるぞ」
「う、うるさいやい!」
そう指摘されて、俺は慌てて鼻を押さえて怒る。 顔が恥ずかしさで赤くなるのを感じた。その恥ずかしさを隠そうとぷくりと頬を膨らませて俺はそっぽを向いた。 しかし、ピアーズは俺の耳が赤くなっているのをしっかり見たらしい。
「耳まで赤いぞ?」
「うるさいやぁあああい!!」
やぁい、やぁい、やぁい……――何故だかエコーした俺の叫びに、ぎょっとしたように周りの人が此方を見た。 ぐっさりと突き刺さる幾つもの視線に俺は引きつり笑いを浮かべ硬直する。一気に顔に血液が集中するのが分かった。 隣のピアーズが笑いを堪えながら、俺に言う。
「……ナツキの声が一番五月蝿いぞ」
……分かってるよ!!それくらい!!というのは俺の心の中の叫びで、表面上は何も言えなかった。 老婆があらあら、なんて言いながら傍を通り過ぎていく。悪目立ちしすぎて……泣きそう……ぐすん。
俯き、恥ずかしさを堪えているととん、と肩を叩かれた。 そろそろと顔を上げると笑いをかみ殺しきれていない表情のピアーズと目があった。
「ほら、行こうぜ。この近くにオススメのカフェがあるんだ」
ケーキもあるぞ、というピアーズの言葉に菜月は目を輝かせる。 ごしごしと目じりの涙を拭うと、に、と笑みを浮かべて、頷いた。
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