- ナノ -



ピアーズと。:01


「……っ、」

キシ、と右腕が軋んで、肩の付け根に痛みが走った。
寝返りを打つたび、こうだから勘弁して欲しい。そのお陰でここ最近はあまり安眠できていない。
付けてからもう一週間程経っているが、義手はまだ慣れない。

ふぅ、と小さく息を吐き出して、閉じていた目を開けた。
窓から差し込む月明かりが見える。サイドテーブルに置いてあるデジタル時計に目を向けた。
蛍光グリーンの文字が現在時刻を示している――04:23。なんとも微妙な時間帯だ。
のそのそと上半身を起こし、目を擦る。

「あ〜……、はぁ……」

ため息が漏れた。
また起きてしまった。こうも寝れないと辛い。
とりあえず水でも飲んでもう一度寝なおそうとベッドから下り、すぐ傍に置いてある小型の冷蔵庫を開けて中から水の入ったペットボトルをとりだした。
ベッド脇に置いてある来客者用の椅子に座ってからペットボトルのキャップを開けようとするが上手くいかない。
右手でキャップを開けようとしても、力の加減が分からずツルツル滑って回らない。

「〜〜〜っ……!!」

今まで思い通りに出来ていたことが出来なくてイライラが抑えられない。
ばしん、と右手でベッドを殴りつけた。そんな事をしても何の意味もないのも分かっているが、やるせない気持ちに嫌気が差す。
くしゃくしゃになったベッドシーツに目をやり、またため息。

自分で捨てた右腕だ。護りたくて失ったのだから。
そう自分に言い聞かせても、やっぱり辛い。

左手に持っていたペットボトルをベッドに投げ置いてから、俺はカーテンを引き窓の外を見上げた。
雲ひとつ無い快晴で、夜空には月が浮かび瞬く星が光っている。
窓を開けると夜の冷えた空気が部屋の中へと入り込む。そよそよと髪が揺れ、その心地よさに目を細めた。
深呼吸をするとうんざりする様な気持ちも少しはマシになった。

「もっと、強くならなきゃ、な……」

BSAAに入るって決めたんだから。
右手でぎゅっと握り拳を作る。自分ではしっかりと握ったつもりだったのだが、右手は緩く握っているだけだ。
BSAAはウイルステロの情報収集のみでなく、実戦もある。義手だからと生温くさせて貰える訳が無い。
それに菜月自身そんな優しさは欲しくない。クリスの隣に並びたい。ハンデがあってもなくても、目標は変わらない。

この右腕が使えるようになったら、任務にも差し支えないくらいになったら、BSAAに入隊する。
夢とかそんなんじゃない。絶対に。自分の心に決めたから。

もう一度深呼吸を一つ。

BSAAの入隊についてはピアーズは驚いていたが、その次には笑ってそりゃ楽しみだ。なんて言っていた。
国籍やその他諸々については俺が何とかすると何とも頼もしい言葉がもらえた。

空が白んできた。再び眠気がやってきて菜月は大あくびをする。
時計を確認すると05:12と映し出されている。どうやら長い時間ぼんやりとしていたようだ。
しかし、今から二度寝すると朝のリハビリに寝坊しそうだ。
ううん。暫し考え込んで、菜月は椅子に座りペットボトルを掴んだ。かなりはしたないがキャップを噛み、左手でボトルを回して開ける。
キャップをベッドへ落とし、漸く念願の水を飲み込んだ。



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