歩き出した未来へ。

胸いっぱいに朝の清々しい空気を吸い込んだ。
照りつける太陽の日差しは眩しく、俺は目を細めながら口元を上げた。
真新しい防護ベストに身を包んだ俺は緩む頬が抑えられない。
こんな顔をジェイクに見られでもすればバカにされそうだ。
いやいやでもずっと思い描いていた夢が叶ったのだ。少しくらい気持ち悪い顔をさせてくれても良いじゃないか。

右手をぐいと上へと伸ばしてから、ぐるっと一度腕を回した。
よし、問題なし。右手につけられた義手の感度は充分だ。

さて、と。モバイルで時刻を確認する。
そろそろ呼びにいく時間だ。
初任務なんだから、時刻くらいはきちんとピッタリしなくては。
ぺちん、と両頬を叩き、緩む顔を抑えて真っ直ぐ前を見て歩き出す。

――カランカラン

ドアを開けると来客を示す音が鳴る。それに気づいた店主がいらっしゃい。と挨拶をした。
俺はそれに軽く会釈をしてから一人の男の背後へよる。
焼けた肉の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。どうやら、ステーキを食べているらしい。
明らかに食事中の男に俺は声を掛けるのを戸惑いつつも、そろそろと声を出す。

「れ、レッドフィールド隊長、指令です。至急来ていただけますでしょうか？」

はじめは吃音してしまったが、何とかうまく言えた。
レッドフィールド隊長、なんてなんだか余所余所しくて慣れない。
ああ、分かった。とクリスは振り向かずに返事をして、ゆっくりと立ち上がった。
立ち上がったクリスに俺は再び頬が緩むのを感じながら、敬礼をする。

くる、とクリスが振り返った。

「……ナツキ……？」

驚きに目を丸くするクリスに菜月はしてやったり顔で口元を上げた。

「はじめまして、隊長。つい最近BSAAに入った菜月です。どうぞよろしくお願いします」

わざとらしく挨拶をして、俺はクリスに右手を差し出した。
俺の右肩にはBSAAを示すワッペンが張り付いている。

そう、俺はBSAAに入隊した。
あの大規模なウイルステロが終わり行くあてがなかった俺はクリスやシェバの恩返しも兼ねてBSAAに入る事にしたのだ。
ジルに頼みクリスには内緒で入隊した。こんな国籍なしの訳ありが入隊できたのはジルとピアーズの進言があったからだ。

驚いたままの表情で固まっているクリスの目の前で軽く手を振る。

「……ナツキ、それは本当か……？」

まだ呆然としながらクリスは菜月に尋ねた。
とん、とワッペンを叩き俺は不敵に笑って大きく頷いた。

「ずっと内緒にしてたんだ。ジルとピアーズに協力してもらって」

ウインクをしてくすりと笑うと、クリスもつられた様に笑みを浮かべた。
がしがしと荒っぽく頭を撫でられる。

「〜〜驚かせやがって！」

「ちょ、わっ、髪の毛乱れるっ！」

その乱暴さに折角ぴっちり決めた髪型がぐしゃぐしゃになった。
俺は乱れた髪を手ぐしで整えながら恨めしげな目でクリスを見る。
クリスは面白そうに頬を緩めながらおざなりに謝る。まったく謝られている気がしないのは気のせいではない。

「もう、何するんだよクリス」

「隊長、だろ」

「えー……」

"隊長"という言葉を強調され、俺は面倒そうな顔をした。
いつも"クリス"と呼んでいたから、突然レッドフィールド隊長と呼ぶのは何だか慣れないし違和感がある。
ほら、とクリスに促され、菜月は照れ臭くて中途半端に笑みを浮かべながらも、仕方ないなと小さく息を吐き出した。
それからゆっくりと息を吸い込んだ。

「隊長！これからも一緒にいような！」

あぁ、なんてクリスが含み笑いしながら頷いた。
笑い混じりのそれに菜月は少しムッとしたが、小さく息を吐き出してからくすりと笑った。

「さあ、行くか」

遅れるなよ？なんて言うクリスにべーっと、舌を出して追い抜いた。振り返ってウインクする。

「クリス隊長こそ、遅れないでよ？」

"隊長"と一度口に出してしまえば、恥ずかしさも違和感もどこかへ消えた。

またクリスと一緒にいられる。その事実がとても嬉しかった。
俺はまだまだ未熟なところもあるけれど、こうやってクリスと肩を並べれる。それだけで、十分だ。

店を出ると涼しげな風が顔を撫でた。
俺は目を細め空を仰ぐ。
澄み渡る青に俺は口元を上げた。



ここからまた、俺は歩き出した――

まだ知らない貴方との未来を描きながら――……




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