彼らと共に:01
ふ、と息を吐き出して俺は顔を上げた。
ごごごご……――
祭壇が真ん中から割れた。 これがヘレナさんの言っていた"地下への隠し扉"って奴なんだろう。 前触れもなく開いた扉の奥を人々が恐る恐ると遠巻きに覗き込んでいる。
俺も興味があるのでそろそろと一緒になって覗き込む。
てちゃ、てちゃ……――
何か変な音がする。 ゆっくりと重たいものが歩いてくるような。
暗がりから出てきたのは体中に穴の開いたぼこぼこがついた生き物。 思わず後じさりして、それを睨む。 見たこともない敵には近寄らないのが一番だ。 俺の近くにいた男がハンドガンをそいつ――レポティッツァに向けて発砲する。
その瞬間に青黒いガスのようなものが噴出した。
「うわっ!?ごほっ……」
目の痛くなるようなそれを思い切り吸い込んでしまってむせる。 レポティッツァを撃った男の人がガスを吸い込んだ拍子にごろごろと階段を転げ落ちた。 慌てて助け起こすが、男の人は顔を押さえたままだ。
「ごほ、……大丈夫ですか!?」
肩をゆすっても男の人は顔を押さえている。 もしかしてあのガス皮膚が溶けたり――? もしそうならとても大変だ、もう一度男の人に声を掛けた。
「大丈夫ですか?――っ!?」
『がぁああ!!』
ば、と顔から手を離したと思った瞬間、その顔は腐敗が進み始めて血まみれになっていた。 ――ゾンビだ。俺は素早く男の人から距離を取った。
「「きゃぁああああああ!!!!」」
突然の敵の出現に教会内がパニックになる。 戦えない人もいるのだ。この状況はとんでもなくまずい。
レオンさんとヘレナさんは一体何処にいるんだ、と思っていると頭上から降ってこられました。
「とりあえず、あいつに近づくな!ガスを吸うとゾンビになるぞ!」
「あ、はい……」
開口一番レオンさんに言われた。 もう俺ガス吸い込んじゃったんですけど。という思いは胸の中だけで呟いた。
俺だけは何故だか知らないが、ガスを吸っても特になんともない。 そんな特異体質は俺だけで見る見るうちにせっかくの生存者がゾンビに変わっていく。
スナイパーライフルでレオンさんがレポティッツァを狙撃する。 が、如何せん硬い上に、撃てば撃つほどガスが噴出する。
「レオンさん!俺も戦いますっ!」
守られているだけが嫌で俺は物陰から飛び出してレポティッツァに向かって駆け出す。 背後でレオンさんが俺をとめる声が聞こえたけれど聞こえないふりをした。
ぶよぶよしたお腹はとても気持ち悪い。
動きは素早いけれど、ガスの攻撃が効かなければそこまで怖くはない。 掴もうとしてきた腕を屈んで避け、足払いをする。
重い身体のお陰もありレポティッツァは尻餅をつく。 その衝撃でボフン、とガスが出たが、視界が悪くなっただけで特に自分の身体に異変はない。 動きを止めることなく、蹴りやすい位置になったレポティッツァの頭を蹴り飛ばす。
「おりゃあっ!」
グチャ――
レポティッツァの首が飛び、建物の柱に当たって砕けた。 頭部を失ったレポティッツァの身体はぐらりと倒れて動かなくなった。 ふう、と息を吐き出して、そこで漸く俺は自分が血まみれになっていることに気がついた。
僅かばかり残った生存者が俺を恐れた目で遠巻きに見つめている。 バケモノを見るようなその視線に菜月は眉尻を下げた。 折角助けようと思って戦ったのに、そんな顔をされると傷ついちゃいそうだ。
レオンさんとヘレナさんが俺の元に駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?気分悪いところとかはないか?」
「平気、です」
身体は。と心の中で付け足した。 心配してくれるレオンさんに俺は苦笑いを浮かべた。
ヘレナさんは少し俺から距離をとっていた。 もしかして俺がゾンビになるとでも思っているのだろうか? 困ったように笑って、本当に平気ですと言う。でもやっぱり信じてはくれなかったみたいだ。
「なら、いいんだが……」
「……あの、お願いがあるんです!俺も一緒に地下につれてってくれませんか?」
俺の言葉にレオンさんは驚いたような顔をした。 そしてヘレナさんと目配せをする。
駄目だ、といわれるのを覚悟して俺は真剣な目でレオンさんを見つめた。 ここで置き去りにされるのは嫌だった。 きっとクリスとシェバをレオンさんとヘレナさんにかぶせていた。
「危険だぞ?それでもいいのか」
「はい!死線は何度も潜り抜けたことがあるんで!」
レオンさんの言葉に菜月は顔を綻ばせた。 ヘレナさんは俺がついてくるのにはあまり賛成していないみたいだが、何も言ってこないところをみるとどちらでもいいんだろう。
じゃあ行こう、とレオンさんが先ほど開いた祭壇に向かう。 階段を下り、カードリーダー式のロックを解き扉を開けた。
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