- ナノ -



海底基地からの脱出:01


俺はゆっくりとクリスの胸元から顔を離した。
目元が熱い。きっと腫れてしまっているんだろう。
目じりに残った涙を服の袖で拭い、俺は一度ぺちんと顔を叩いた。
こんな大変な時に取り乱すなんて本当、馬鹿すぎる。

もう大丈夫か、と尋ねてくるクリスに俺は小さく笑って、頷いた。
……もう、大丈夫。迷わない。

『庫内の減圧が完了しました。扉のロックを解除します』

丁度気圧の調整が終わったアナウンスが響いた。
ふと扉の方を見るとちょうどその方向にいたピアーズと目が合う。
何となく気まずくて俺は視線を斜め上へと泳がせた。

ふ、とため息の音が聞こえて、ピアーズがゆっくりと此方に近づいてきた。
おずおずとピアーズに視線を戻す。
険しい顔をしたピアーズが此方を睨むように見ている。

「――……ナツキ、」

「ぅ、うん」

「無理すんなよ」

何を言われるかと身構えていた俺に掛けられたのは、いたわりの言葉。
俺は拍子抜けして、肩から力が抜けた。

「っいてっ!?」

「気、抜くなよ」

「……わ、わかってるよ!」

気を抜いた瞬間、額を軽く小突かれた。
大して痛くもないのに、反射的に声を上げてしまう。
笑いながらのピアーズの指摘に少し顔を赤らめながら、噛み付く。

「さあ、急ぐぞ」

クリスの言葉に俺達は頷いた。
くるくるとドアについたバルブを回してから、重そうなドアをクリスが押し開ける。
菜月とピアーズが入るのを見てから、クリスは扉を閉めた。

『施設内に異常発生。圧壊の可能性があります』

「あ、あっかい!?」

そのアナウンスに俺はぎょっとしてふたりの顔を見上げた。
安心するにはまだ早いようだ。

『施設内のスタッフは至急、避難してください』

ガタガタと揺れだす建物に俺は顔を引きつらせ、走り出したふたりの背中を追いかける。
所々足場が壊れ始めている。地面を蹴り、跳躍する。
それと同時に、先程の足場が壊れ落ちた音がした。

そろそろ建物も耐えられなくなってきたようだ。

「く、なんだこれは!?」

前を走っていたクリスが突然足を止めた。
蛹と同じような素材のものが道を塞いでいる。
ピアーズがショットガンで撃つが、びくともしない。

「俺が壊す!下がってて!」

右腕に力を込めて、壁を殴りつける。
一発では壊れなかったため、俺はもう一度腕を振り上げた。

二度目の打撃にど、と壁が壊れて道が開ける。

「壊れた!クリス、ピアーズ!」

振り返り、周りにいた敵と応戦していた二人に声をかけて駆け出す。
雑魚に構っていては全員建物に潰されてしまう。



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