- ナノ -



UROBOROS


C-ウイルスっていうのはかなり面倒なものだな、とコンテナに飛び乗りながら思った。
蛹になって完全復活する、なんてウロボロスはできない。
クリスとピアーズが何度も銃で撃っているが、なかなか倒れない。
動きも早く、それから逃げるために駆け回っているため鍛えているはずのクリスもピアーズも息が荒い。

早くトドメを刺さないと俺もふたりも体力がなくなってしまう。

「えいっ!」

丁度、同じコンテナの上に飛び乗ってきたハオスの顔面を目掛けて思い切り殴る。

『オォオオオオ!』

突き落とされたハオスは悲鳴をあげ、身体を修復するために蛹になりはじめる。
動きをとめ、硬くなるハオスにピアーズがショットガンを撃ちまくる。
蛹といえど完全に攻撃が効かなくなるわけではない。

ダァン――

撃ち続けられる散弾に耐えられなくなったらしく、蛹が壊れ中から二つに分かれたままの中途半端な状態のハオスが飛び出した。
動けないのか、ハオスは地面に倒れたままだ。

「チャンスだ……!」

その好機をクリスは逃さず、コンバットナイフを持つと素早く近づきハオスの胸元ほどにあるオレンジ色をした心臓のようなものに突き刺した。
血を撒き散らしながらそれが壊れると、ハオスは身体をびくりと痙攣させ素早く傍にあった自分の片割れとくっついて逃げるようにコンテナの上に乗り蛹になった。
クリスとピアーズが届かない場所で蛹になればいいと思ったのだろう。ある程度知識はあるようだが、甘い。

――タンッ

軽やかにコンテナからハオスのいるコンテナへと飛び移る。

「俺がいる事、忘れてもらっちゃ……困るね!」

力いっぱい蛹を殴りつけた。
ばき、と蛹の割れる音がしてそのままコンテナの下へとぶっ飛ばす。
触手でハオスを押さえつけ、クリスに向かってアイコンタクトを送る。

――トドメを!

――あぁ!

言葉がつくなら、そんな会話がされていただろう。
クリスが駆け出し残る一つの心臓らしきものに向けてぐさりとナイフを突き刺した。

『オォオオオオォオオオ!!!』

一段と五月蝿い悲鳴が響き、今度こそハオスは蛹にはならずにその場に倒れた。
その瞬間、全員がふ、と息を吐き出し身体から力を抜いた。

「……やっと、倒れたか……」

そんな小さなクリスの呟きが静かな空間に反響する。
コンテナの上から降りようと足に力を入れた。

ドクン――

心臓が妙な動きをした。
一瞬、息が詰まり、菜月は足から力が抜けた。
身体が傾き、コンテナの上から飛び出る。

徐々に近づく地面に菜月は身体を動かす事も出来なかった。
否、身体が動かせなかった。

バシャン、と水が身体全体を濡らした。
それに気にしている余裕は菜月にはなかった。

「……ぁ……ぅう……」

心臓が焼けるように熱く、頭の中が何かに浸食されるように意識が混濁していく。
この感覚を菜月はずっと前に感じたことがある。

そうウェスカーに操られた時、だ。

しかし、もうウェスカーはいない。
つまり、それは……それが意味する事は……――


――ウロボロスに、侵食されている……?





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