再戦VSハオス:01
「ピアーズッ!!!」
地面を蹴り飛び跳ねる。手を伸ばしてピアーズを掴み、そのまま身体を強く抱きしめた。 ぎゅうっと目を閉じ落下の衝撃に耐える。
ザシュッ――
「く、ぁ……」
「な……!ナツキッ!?」
痛みに声が震えた。 がたがたと身体を震わせながら、俺は無事な左手を右肩へ這わせる。 ぬるりとした生暖かい液体が手を汚す。
ピアーズが呆然として俺を見つめる。
痛みに視界がちかちかと明るくなったり暗くなったりを繰り返す。 悪い視界の中でピアーズを見上げた。どうやら彼に傷は無いようだ。 ふ、と息を吐き出し俺は小さく口元を上げた。
……良かった。護れた。
緩やかに笑う菜月にピアーズは眉を吊り上げる。
「何で……笑ってんだ!馬鹿か!」
「……ごめん、」
――でも、ピアーズが傷つくのは嫌だと思ったから。 そういうとピアーズは目を見開き、開きかけた口を静かに閉じた。 傷が深いせいか、中々治らない。痛みの波に併せて菜月は息を吐き出した。 暫く耐えればすぐにこの痛みも消えるはずだった――何も、無ければ。
「ナツキッ!ピアーズッ!!」
クリスの叫び声に俺は顔をあげた。 こちらに向かって飛んでくる巨大なコンテナの破片が視界に入ると同時に反射的に左手だけでピアーズを突き飛ばした。 横腹を殴るような形になってしまい、ピアーズが小さく呻いたが謝れるような余裕はない。
ガンッ――
ぐちょ、だかぐちゃ、だかそんな音がしたと思う。 瞬間的な痛みに一瞬息が詰まり、視界が真っ白になった。
「――ぁっあぁああああああぁああああ」
右腕の感覚が無くなった。 指先も、二の腕も何にも分からない。握っていたはずのハンドガンの感触も……ない。 つぅっと全身に脂汗が流れ、菜月は絶叫した。 叫ばずには意識が何処かへ飛んでしまいそうなくらいの激痛だった。
「……うわぁああっ!!?」
クリスの悲鳴に意識がそちらへ向いた。 ずきずきと痛む腕を無視してクリス、と小さく名前を呟く。 白いハオスの手にクリスは捕らわれてしまっている。 かなりの力で圧迫されているのか、クリスの顔色は青ざめている。 腕まで掴まれているせいで身動きが取れないようだ。
――……助けなくちゃ……俺が……。
歯を食いしばり、コンテナの破片に串刺しになった右腕を無視して思い切り立ち上がった。
グチッ――
鈍い音がして、ずくんと痛みが走る。それと一緒に大量の血液が俺の腕から飛び出す。 完全に右腕は俺の身体から離れてしまったが、不思議と後悔はなかった。 後先の事なんて俺の中にはなかった。ただただクリスを助けたい。それだけだった。
それだけで、いいんだ。
「うぉおぉおおおおぉおおおお!!!!」
雄たけびを上げ、ハオスに向かって全力疾走する。 そして失ったはずの右腕を振り上げた。
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