護りたいモノ:02
「――ナツキッ!!」
呼び声と共に腕が強く握り締められた。 身体が引き止められたのに、驚き俺は目を開く。
閉じかけた隔壁を片腕で押し上げながら、手を引っ張っているのは――ピアーズだった。 少し傾いたここでは体勢的にもきついのかその顔は苦渋に歪められている。 会った時から此方を睨むばかりで名前すらも呼んでくれなかった彼が菜月の腕を掴んでいた。
「必ず……生きて帰るんだろ!そんな諦めたような顔するな!!」
「!」
さっきのクリスとの会話をピアーズは聞いていたらしい。 怒鳴られた俺は目を見開いてピアーズを見つめた。 ピアーズの目はやっぱり俺を嫌っているような色があったけれど、ピアーズは俺の身体を簡単に引き上げた。
引き上げると同時にぱ、と腕を離し、そっぽを向いたピアーズの背中に俺は呟くように小さな声を掛ける。
「……ありがとう、」
僅かにピアーズの肩が揺れた。 声は返ってくることは無かったけれど、感謝の言葉は届いたようだ。
「ピアーズ!ナツキ!早くしろ隔壁が閉まる!」
クリスの声に急かされ、ばっと駆け出す。 スライディングをして閉まりかけた隔壁を潜り抜ける。 そのまま次の隔壁に向かおうとした時だった。
横からズドッと衝撃が走り、ハオスの腕が通路を塞いだ。 それと同時に海水が中へと入り込んでくる。
「チッ!急いでるっていうのに!」
苦々しげにピアーズが吐き捨て、ショットガンを撃ちこむが腕は通路を塞いだままだ。
「これでやる!離れてろ!」
クリスがピアーズを後ろへ下がらせ、グレネードランチャーを撃つ。 ドン、と弾が腕に当たり弾けた。その衝撃に腕が吹き飛ぶまではいかなかったが、通路は通れるようになった。
いくぞ!クリスの合図が出るよりも前に身体は動いていた。 ガンガンと足音を立てながら菜月達は薄暗い通路を駆け抜けていく。
扉を開け、幾つもの隔壁を抜けていくが、隔壁程度ではハオスを止めれないようだ。 ドガンやドゴン、という騒音を立てながら隔壁を壊す音が背後から聞こえてくる。 それと一緒にドンドンと心臓が五月蝿く脈を打つ。 恐怖を振り払うように必死に足を動かし、閉まりかけた隔壁をスライディングで潜り抜けた。
すぐに身体を起こし、背後を見る。
「わっ……!?」
ハオスの白い手が隔壁を持ち上げ、菜月達のいる空間へと入り込んできた。 休憩する間もなくハオスは巨大な手で菜月達を捕らえようと腕を振るってくる。
「隊長!」「クリス!」
俺とピアーズの声が重なった。 突然の事に俺は身体を動かせなかったが、ピアーズは持ち前の反射神経でクリスを突き飛ばした。
しかし、ピアーズの右腕がハオスにつかまれてしまった。 まるで虫を掴むかのようにピアーズはぶらんと宙に持ち上げられる。
「ピアーズ!」
クリスが叫び、ハオスの腕に銃を撃つ。 その攻撃にハオスは腕をブルリと震わせ、ピアーズを投げ捨てる。 落ちる先には鋭く尖った大きな金属片がある。
もしも、あれにピアーズが突き刺さったら……?考えたくも無い。
そんな事を考えている時には既に身体は動き出していた。 追いつけるか――いや、追いつかなければならない。
護りたい、人達がいる。
変えたい、世界がある。
俺には、その力がある。 そう信じていいよね、ねえ、ウェスカー……。
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