覚醒する意識:02
パリン、と頭上で何かが割れた音がした。 ――と同時に降り注ぐガラス片に俺は慌ててその場から飛びのいた。 頬を掠めたガラス片が赤い線を作った。
見上げると男の人がライフルを構えている。
「手を貸すぜ!一気に片付けよう!」
どうやら援護してくれるらしい。 心強いが窓ガラスを割るときは人が下にいないかを確認してほしかった。 もう少しで頭にガラス片が刺さるところだ。
「ポール今のうちだ!鍵を開けろ!」
建物内部からがたがたとなんやら音が聞こえてくる。 どうやら、中に入れてくれるみたいだ。
レオンさんが小さな声で腰抜けだけじゃないんだな、なんて呟いていた。
大分ゾンビの量も減ってきたし、一気に畳み掛ける。 目の前のゾンビを蹴り倒す。地面を這っているゾンビは頭を踏み潰す。
ライフルで狙ってくれる男の人のお陰もあり、あっという間にゾンビはいなくなった。
「鍵を開けたぞ!早く入ってくれ!」
その声を聞いて3人は同時に扉に駆け寄った。
「お前を信じてここまで来た。それに見合う情報なんだろうな」
「そう思えなかったときは遠慮なく私を撃てばいい」
扉に駆け寄る途中で交わされた意味ありげな会話に俺は無言で耳を傾けた。 二人の間に何かあったのだろうか。俺には知る由もないけれど。
僅かにあけられた扉の隙間に身体を滑り込ませて、素早く扉を閉め鍵を掛けた。
外から見たとおり中はとても広かった。 椅子がずらっと並べられ、奥には祭壇がありその上にはマリア像が佇んでいる。 どうやらここは教会らしい。
俺達が入ってきたのを見て、まばらだった人が集まってくる。 その中には先ほど俺達を援護してくれた男の人もいる。
「あんたらは……?」
「すまない、俺達は救助の人間じゃない」
人々の期待を含んだ目にレオンさんは謝罪した。 がっくりと項垂れた人々の様子に、救助を心待ちにしているのだなと菜月は思う。 救助の人間じゃないなら用はない、とでもいうようにさっさと背を向けてもとの場所へと戻っていった。
その様子に内心不機嫌になりつつ、それもしょうがないのかとも考える。 こんなゾンビだらけの中にいたら不安で不安で仕方がないだろう。
「祭壇の下に地下へ通じる秘密の扉がある」
ヘレナさんが奥の祭壇を指差しそう言った。その仕掛けをとく鍵がどこかにある、とも。
「そこにお前の言う真実があるのか?」
「……そうね」
レオンさんの問いかけにヘレナさんは少し間を置いてから頷いた。 ずっと彼らの会話に耳を傾けていたが、なんだかいざこざがあるみたいだ。
「あの……」
そろそろと手を上げて存在を主張すると、レオンさんが思い出したように俺を見た。
「ナツキはとりあえず、ここにいればいい」
ここなら、今のところは安全だろう。とレオンさんに言われて俺は小さく頷いた。 知り合った人と離れるのは少し不安だが、彼らからすればただの一般人なんだからそれも普通の対応だ。
仕方なしに俺は駆けて行った二人の背を見送った後、祭壇から一番近い椅子に座り込んだ。
「クリス……シェバ……逢いたいなぁ」
やっぱり思い出すのは二人のことだった。 瞳を閉じて、思い出す。
何故だか浮かんできたのは微笑だった。 大変な目にあったけれど、なんだかんだで楽しかったのかもしれない。
短い間に沢山の思い出を作れたから。
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