護りたいモノ:01
エレベーターのドアが開いた。 水の中にあるらしいこの施設は少し薄暗い。 薄暗い通路は辛うじて足元にある僅かな光源のお陰で何とか周りが見える。 ガラス張りでそのすぐ向こうは水だ。もしもガラスが割れでもしたら……考えるだけで真っ青になる。 音もしないこの空間はやけに不気味だった。
菜月は無意識のうちに身体に力を入れ、きゅっと口を固く結んでいた。
「ナツキ」
「……えっ、何、クリス?」
不意に声をかけられ、反応が遅れる。 グレネードランチャーの弾を込めながら、クリスが此方を見て緩やかに口元を上げた。
「必ず、生きて帰るぞ」
「!」
「俺だけじゃなくて……シェバにも会いに行くんだろ」
「……うん」
――シェバ。最期に見えた、あの哀しげな目が脳裏に過ぎる。 俺は僅かに目を伏せ、何度も首を上下にふり頷いた。 それから、クリスに柔らかく笑った。
「怒られるかな……?」
「どうだろうな」
クリスはさあ、と肩を竦めた。 シェバの事だ。きっと最初は泣きながら怒るんだ。それから笑って許してくれる。きっと。 目を閉じ、彼女の顔を思い出して俺は苦笑した。
「隊長!早くしてください!」
既に先に進んでいたピアーズがついてこない菜月達に気付き、怒ったように声を上げた。 その声に俺はクリスと顔を見合わせ、小さく笑ってどちらからともなく歩き出した。
頭上を黒い影が覆い隠す。 はっとして上を見上げると同時に強い衝撃が走り、通路ががくんと傾いた。 かなりの角度に傾いた通路の床の凹凸に指を突っ込み、何とか転がり落ちるのを防ぎ顔を上げた。 先程の倒したはずのハオスが此方を見下ろしている。
頭上でハオスが旋回し、再び此方に突撃しようとしているのが見えた。 これ以上突進されるとガラスが割れる可能性がある。 それよりも先に逃げなければ不味い。
「隊長!隔壁が……!」
ハオスの突撃した衝撃に危険を感知した基地が自動的に隔壁を閉めようとしているようだ。 あの隔壁が閉じられてしまえば、菜月達は死んでしまうだろう。 それは何が何でも避けたい。俺だけならまだしも、クリス達までが死ぬのは嫌だ。 こんなネガティブ発言をクリスが聞いたら怒りそうだ。
腕を伸ばし、しっかりと掴んで少しずつ地面を這いずっていく。 滑り落ちでもすれば、隔壁に取り残される羽目になるだろう。 ぎゅっと歯噛みし菜月は腕を動かす。
隔壁の閉まる速度はそう速くは無い。 しっかりと一歩ずつ這いずっていけば問題ないだろう。
「急げ!」
一番先に隔壁の向こう側へとたどり着いたクリスが叫ぶ。 その声にせかされ菜月も必死に腕を動かし、既に半分ほど閉じた隔壁の隙間に身体を滑り込ませた。
それと同時にがくんと通路が揺れた。
「……っぁっ!」
――不味い。 そう思った瞬間には身体は隔壁の方へ倒れこんでいた。 反射的にクリスの方へ手を伸ばしたが――……届かない。
足の裏が地面から離れた。 もう駄目だ……俺は恐怖に目を硬く閉じた。
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