再会と、:02
やっぱり、この世界は俺に優しすぎる。優しくて温かくて本当にここにいていいのか分からなくなる。 幸せで、胸がいっぱいになる。
泣きながら、俺は緩やかに口元を上げクリスの胸から顔を離す。 泣いてはいないものの俺と同じような表情をしたクリスが俺を見下ろしている。 ぽんぽんと頭を撫でてから、クリスは真剣な表情になりシェリー達を見た。 ――正確には、ジェイクを。
そして、こう言ったのだ。
「……よく見れば、父親の面影がある」
「……ぇ?」
はっとしたようにシェリーがクリスを見上げる。 菜月はクリスの言葉の意味が分からず、ハテナを浮かべ両者を交互に見つめた。
("父親"……もしかしなくても、ジェイクの父親は――ウェスカー?)
急に温度が一、二度どころか十度程下がったような感覚がして菜月はぶるりと身体を震わせた。
「ちょっと待て……知ってんのか?」
険しい顔をしてジェイクがクリスを睨む。 声色に怒気が混じっている。 それにクリスは臆すことなくたんたんと答えた。
「あぁ……」
――俺が殺した。
その瞬間構えられた銃に俺は顔色を変え、クリスとジェイクの間に割り込んだ。 反射的にピアーズが視界の端でジェイクに銃を突きつけたのが見えた。
違う。クリスはウェスカーを殺していない。 ウェスカーを殺したのは――……俺だ。 止めを刺したのはクリスでも、シェバでもない……紛れもなく俺だ。
クリスを庇うように割り込んだ菜月をジェイクが鋭い眼光で睨んできた。 冷たいそれに身体が小刻みに震える。だが、菜月は負けじとジェイクを睨み返す。
「……ウェスカーを殺したのは、クリスじゃない!――俺だ!」
「ナツキ!」
咎めるように名前を呼んだのはクリスだ。 俺はその声を聞こえないふりをして続けた。
「……俺が……俺が道連れにしたんだ……溶岩に飛び込んで――」
目を伏せれば思い出せる、あの光景。 焼ける、というよりも溶けるといった方が正しいような熱さと、痛み。 カラカラになった喉で叫んだ"さよなら"とウェスカーに抱きしめられた感触。 全部……覚えている。
「やめろ……!ナツキ、お前は……」
「止めないで、クリス……俺が、ウェスカーを殺したのは事実でしょ」
理由がどうあれウェスカーを――ジェイクの父を殺したのは俺だ。 怒りの矛先をクリスに向けるのはお門違いだ。
向けられた銃口を真正面から見つめる。 カチャ、と小さな動作でハンマーが下ろされた。 これでトリガーを引かれれば、菜月は死ぬだろう。
「……何故、親父を殺した?」
ジェイクの問いに俺は僅かに目を細めた。
「大切な人を……世界を守るためだ」
その瞬間、ハンドガンを握り締める手に力が入ったのが分かった。 それでも俺はジェイクから目を反らさずに見詰め合う。 いつの間にか身体の震えは止まっていた。
「ジェイク!やめて!」
「やめろ!」
「撃つぞ!」
シェリー、クリス、ピアーズの声が重なった。
「うぉおおおおあああああああ!!!」
――ダァン
銃声が、響いた。
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