ただ独り。:01
ふ、と瞼を上げた。 見覚えのない金属製の天井が目に入る。 身体を動かそうとして、手足が動かない事に気がつく。
「な、に、これ……」
寝心地の良くない冷たい寝台に腕と足がしっかりと固定されていて動かせない。 首だけ動かせるのが不幸中の幸いだろう。
薄暗い部屋には菜月以外には誰もいない。 最低限の光量だけを発する蛍光灯をぼんやりと見つめる。
ジェイクとシェリーは無事だろうか。
シモンズがあの二人は殺すなって言ってたんだから、少なくともすぐに殺されることはないだろうとは思うが心配だ。
「……ひとりだ……」
自分の声が部屋に反響することなく消えた。 声に反応してくれるものは他に誰もいない。
本当に一人なんだと感じる。
ひとりを実感すると急に淋しくて怖くて、涙が溢れてくる。 ずっと誰かと居たせいかこうしてひとりで居る事に慣れない。 寂しさに胸が張り裂けそうだ。
「ぅ……う……怖いよぉ……」
夢の中ですら、ウェスカーが居てくれたって言うのに。 今は、ひとり。
情けない泣き声が部屋を埋め尽くす。
「ひっく……ふ……ううわぁああああん」
子供みたいに、泣いた。 溢れ出す涙を自分で止める術なんて持ってない。 涙を拭う事も出来ず、顔をぐしゃぐしゃにしてただただ泣く。
――ビービービー
「!?」
その辺にあった電子機器がモニターを赤く光らせアラートを鳴らす。 突然の事に驚き、涙が引っ込んだ。 呆然としていると手足を拘束していた金属がかちゃ、と小さな音を立てて外れる。
「ぇ……え?」
がばりと身体を起こし、訳も分からないままきょろきょろと辺りを見回す。 何が起こったのかさっぱりだが、少なくとも動けるようにはなった。 寝台から飛び降り、菜月は電子機器の傍にあったデスクの上のハンドガンを手に取ると、弾数をチェックした。
「よし、」
ガンホルダーに仕舞い、手の甲で涙を拭った。 パチンと両頬を叩き、気合を入れる。
「今は、ひとりだけど……待ってくれてるって思っていいよね」
――ねぇ、クリス、シェバ。
目を閉じ、二人と過ごした僅かな日々を思い描く。 それからレオン、ヘレナ……ジェイクにシェリーの顔を思う。
そして、最後に……金髪のあの人を。
「ウェスカー……うん、俺、頑張るよ」
脳裏に描いたウェスカーが小さく笑ったような気がした。
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