約束と本音:02
俺とジェイクがレオン達の元へ駆けつけると、シモンズは忌々しそうに顔を歪めながらレオンとヘレナを睨んだ。
「彼らにここを教えたのは君か?」
「このテロに貴方が関係しているって本当ですか?」
シモンズの問いには答えず、シェリーは今一番気になっているであろう事を尋ねる。 ふぅ。長いため息をつき、シモンズは肩を竦めた。
「余計な事まで吹き込まれたか」
「答えてください!」
関係している事は否定しない。 明確な答えは示さなかったが、ある意味それが答えだ。
シェリーの泣きそうな叫びがわんわんと鼓膜を振るわせた。
心のどこかでまだシモンズを信じているんだろう。 否定してくれると、思っているのかもしれない。 俺は口をぎゅうっと結び、シモンズを睨みつけた。
こんな最低な奴にシェリーが泣かされるなんて不愉快だし嫌だ。 いつでも応戦できるように右手はハンドガンのグリップを握り締める。
「アメリカのため、ひいては世界の安定のためだ」
「それが……大統領を殺した理由か!」
レオンが声を荒げる。 いつになく大きな声に俺はどきりと肩を跳ね上げる。 噛み付くレオンにシモンズは訳が分からないという風に首を傾げた。
「何を言ってる?大統領を殺したのは君だろ?」
「シモンズ!」
――やれ。
シモンズの言葉で今まで何もしなかった男達がマシンガンを乱射させる。 マズルフラッシュが何度もちかちかと光る。
「レオン!ヘレナ!」
狙われた二人は素早く物陰に隠れ、銃弾を避ける。 俺達の方には飛んでこない事を見ると、あらかじめ殺さないように命令されているのか……? 俺、ではなく、二人が。
「やめて!」
「ちょ、シェリー!危ない!」
自分の身の危険も顧みずに銃弾の嵐にシェリーが飛び込んでいく。 チッ、と背後で舌打ちが聞こえ、ジェイクがシェリーを抱きしめながら、レオン達の居る物陰へと勢いよく転がった。
「あの二人は殺すな!」
一旦銃声が止まる。
高台に居るシモンズと目があった。 ふふんと悪役がよくする嫌な笑みを浮かべるとシモンズは俺を指差しこう言った。
「あいつは殺せ」
――ダダダダダダダダッ
「きゃぁああああああぁあ!!!」
俺を目掛けて飛んでくる幾つもの銃弾に女の子のような甲高い悲鳴をあげ、俺はばっと横に転がった。 幾らウロボロスで強化されてても当たると痛いんだよ!……痛いんだよ!大事な事だから二回言っとくけど!
ズザサァ、と勢いよく転んだ結果、手のひらを思い切り擦りむき、じんじんと痛む。
半泣きで顔を上げると苦笑したレオンと目が合った。
「よかった、無事だったんだなナツキ」
「うん、何とか……シェリーとジェイクもいたから……」
ゆっくりと身体を起こすと、ぽんぽんと頭を撫でられる。 レオンの隣にいたヘレナも柔らかく微笑んでくれた。
「こっから先、英雄さんならどうする?」
そんな感動の再会もすぐ打ち切られる。 レオンは辺りに視線を彷徨わせてから、俺達とは丁度反対側にある銀色の扉を見た。
「あの扉まで走れるか?」
少し距離はあるが全力で走れば銃弾に当たらずにたどり着けるだろう。 全員ぶっ殺したっていいぜ。というジェイクの言葉に俺は引きつり笑いを浮かべレオンの言葉を待つ。
「シェリーを守ってくれ。ナツキもジェイクと行くんだ」
「え……でも、」
それはシェリーを守るのは俺も賛成だ。 食い下がろうとした俺をレオンは強い視線で制した。
ダダダダダッ――
連続した銃声が聞こえ、すぐ傍の地面を抉った。 どうやら隠れたまま出てこない俺達に痺れを切らしたようだ。
「往生際が悪いぞ。早く出てきたまえ」
いつまでも隠れているのは良くない。 これからどうするのかと四人の顔を見比べる。
シェリーが意を決したように腰のポーチからSDカードを取り出しレオンに差し出した。
「この中に、シモンズが求める情報が入ってる。C-ウイルスの脅威から世界を救う方法よ……」
「わかった」
レオンは小さく頷いてそれを受け取るとポケットに仕舞う。 そしてハンドガンを両手に持つと全員に視線を送った。
ごくりと生唾を飲み込み、俺もハンドガンを握り締める。
「行け!」
タァン――
タァンタン――
レオンとヘレナがシモンズに向けて銃を発砲するのを横目で見ながら、俺とジェイクとシェリーは扉に向けて駆け出す。
振り返りたいけれど、振り返らない。 大丈夫、二人は強いんだ。だから、大丈夫。
扉を蹴破るようにして開け、中へと飛び込み、まだ走る。
「――っ」
頭上から飛び降りてきたジュアヴォに足を止める。 それは徐々に数を増やし、俺達を取り囲んだ。
「逃げて!」
シェリーが叫ぶが、菜月もジェイクも銃を構えたまま動かない。
「やなこった」「嫌だ」
俺とジェイクの言葉が被る。 どちらも拒否を意味する言葉だ。
「約束したじゃない!」
「悪いけどさ――」
赤黒い太い腕を振り上げたジュアヴォの額を撃ち抜きながら、菜月は言葉を続けた。
「初めから逃げる気なんてないから!俺も、ジェイクも!」
「そういうこった!」
一斉にハンドガンでジュアヴォを狙い撃っていく。 しかし、倒しても倒してもジュアヴォは一向に減らない。
空になったマガジンを投げ捨てて、新たなマガジンを挿入したときだった。
「ジェイク!ナツキ!」
悲鳴のようなシェリーの声にはっとしてそちらを見る。 ジュアヴォ二体に抱え込まれ動きを抑えられ引きずられているシェリーの姿が目に入った。
「シェリー!」
ジェイクがシェリーのもとへ向かおうとするが、悉くジュアヴォに遮られる。 このままではまずい!菜月も急いで足をそちらに向けるが、ジュアヴォが立塞がる。
「邪魔だ!」
「ナツキ!後ろだっ!」
焦っていて背後にまで気が回らなかった。 ジェイクの鋭い声に背後を振り返ったときには遅かった。
赤黒い腕が菜月の視界を埋め尽くした。
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