- ナノ -



VSウスタナク:02

「皆!あいつの腕に気をつけて!」

「了解!」

「言われなくても!」

シェリーの注意にレオンと菜月が声を上げる。
どう考えてもあの腕はヤバイ。すぱっとやられそうだ。

ショットガンを構えレオンが走り出す。

ダァン――

散弾がウスタナクに容赦なく降り注ぐ。
しかし、それぐらいではウスタナクは怯みもしない。
ジェイクが後ろに回りこみ、後頭部に向けてハンドガンを打ち込んだ。

ぐ、とウスタナクが腰を低くした。
危険を察知し、菜月はごくりと唾を飲み込んだ。
ハンドガンでは動きを止める事は出来ないだろうが、ウスタナクの頭部を狙撃する。

「ぎゃぁ!!こ、こっちくんなぁ!!」

菜月に向かって、どすんどすんと足音を響かせながらウスタナクが突進してくる。
巨体の割りに動きは早い。瞬きのうちに目の前まで来たウスタナクを間一髪で横に避ける。

ドキドキと心臓が五月蝿いほどに脈を打つ。
涙を目じりに浮かばせながら、俺はウスタナクを睨む。

「戦えないなら下がってな」

「た、戦えます!!」

通り過ぎざまに聞こえたジェイクの声に頬を膨らませた。
菜月だって戦える。なんたってクリスとシェバと共に何度だってピンチを乗り越えたんだから。
負けじとジェイクの背中を追いかけてウスタナクに近づく。

「へ?」

目の前にいたジェイクが突然左に避けた。
間抜けな声を上げた俺の胴に煌く爪が回る。

「ぎゃあ!?」

ふわりと身体が宙に浮く。
そしてそのまま菜月はウスタナクの胸元まで近づけられる。
ぎょろりとした隻眼が菜月の顔を覗き込んだ。

「――ひぃっ」

何を血迷ったのかウスタナクはそのまま菜月を自分の背負っている籠へと閉じ込めた。
がしゃんと閉まった籠に菜月は何が起こったのか理解する事が出来なかった。

ぐらぐら揺れるウスタナクの背中で菜月は叫んだ。

「おれ、俺!元カレじゃないですよぉおおおおおお!??」

俺じゃなくてあっち、あっちのはg……ゲフン、ジェイク!!
じたばたと籠の中から手を出し、ウスタナクの筋肉質な肩を叩きまくる。

籠の中で暴れすぎたせいか、籠が開き菜月は勢いよく外へ吐き出された。

「へぶしっ!?」

べちょ、と地面に顔から叩きつけられる。
痛みに涙がポロリと一粒こぼれたが、泣いている暇はない。
ばっと立ち上がり、すぐにウスタナクから距離をとった。

「……はい?」

振り返るとウスタナクはぴょーんとコンテナの上に乗り何処かへと逃げ去っていった。
ウスタナクの行動がよくわからず、菜月は頭上にはてなを浮かべる。
しかしまあウスタナクが逃げたのなら幸いだ。

「あの野郎の相手は時間の無駄だ。逃げるが勝ちだぜ」

俺は何度も頷き、疲れたようにため息をついた。

「レオン、ナツキ、こっちよ!」

ヘレナが俺達を呼んだ。
さび付いたトタン板が張られた向こう側を指している。

駆け寄りトタン板の隙間を覗き込むとまだ使えそうなバスらしきものがある。
なるほどあれを使って脱出するという事だろう。
ジェイクがシェリーを、ヘレナがレオンを協力して跳ね上げる。

「シェリー、レオン!危ないっ!!」

トタン板を越えようとしている二人をいつの間にか戻ってきたウスタナクが狙っている。
はっとしたレオンが素早くシェリーを庇って向こう側に落ちていった。
二人の安否が気になるところだが、今は目の前の敵に注意した方がいい。

ヘレナ、ジェイク、菜月は一斉に散開し、銃を撃つ。
が、幾ら撃ってもウスタナクが倒れる様子はない。

菜月は苦い顔をして、マガジンを入れ替える。

「ジェイク!ヘレナ!あいつを引き付けれる?」

「あぁ?何か策でもあんのか?」

ジェイクの問いかけに大きく頷いた。
――が、ぶっちゃけ策なんてないんですがね!!!
とか言っちゃうと多分ジェイク怒るんだろうな、と思いつつ俺は銃を仕舞い手を硬く握り締めた。

銃よりも力で勝負した方がいいかもしれない。
あの巨体に近づくのは怖いけれど、弱音ばかり吐いていられない。

「おら、引き付けたぞ!」

完全に菜月に背を向けたウスタナクに走り距離を詰める。
強く握り締めた拳を振り上げる。

「――っちょ!」

振り下ろす、と同時にウスタナクは気配を察したのか振り返った。
足を殴るつもりだったのに、狙いは外れ代わりに右手のアタッチメントを思い切り殴りつけた。

ガキャッ――

「〜〜〜〜〜〜っ!!!?」

右手に走る激痛に声にならぬ悲鳴を上げる。
アタッチメントは破壊したものの、菜月の右手が大惨事だ。
すぐに治るが痛いものは痛いのだ。

「危ねぇっ!!」

涙をちょちょ切らせている菜月の視界いっぱいに黒が広がり、身体がそれと一緒に弾き飛ばされた。
ほぼ同時に先程までいた場所にバスが猛スピードで通り過ぎる。
顔を上げるとすぐ近くにジェイクの顔があり、俺は思わず顔を赤らめた。
胸元からは男らしい汗臭さが漂い、鼻をくすぐる。

ワイルドだ……。

頬の切り傷がワイルドさを更に出している。
ついでに言うと米神を伝う汗も男らしい。

「……大丈夫か?」

「ふぉっ!?だ、だだ大丈夫です!」

覗き込まれて俺はどぎまぎしながら、ばっとジェイクから距離をとった。
これ以上近づかれたら心臓が持たない。

……因みに言うが、俺は断じてホモじゃない!ホモじゃない!

大事な事なので二回言っておく。
胸元を押さえて、深呼吸を一回荒れた心臓を無理やり押さえつける。
その様子をジェイクが不思議そうな顔して見ていたが気にしない。

ウスタナクは壊れたアタッチメントを見やり、
ぶちりと外すとコンテナの上に置いていた替えのアタッチメントをつけた。
なんとも準備のいいことだ。ゾンビとは違いある程度の知恵はあるようだ。

「ちゃんと替えまで用意しているのか」

「誉めてあげましょうよ。化け物にしては準備がいいわ」

「いやいや……そんな事言っている場合じゃないって……」

折角決死の思いで潰したアタッチメントをいとも簡単に付け直されるとちょっと不満だ。

「どうよ、言ったとおりだろ?こいつは倒れちゃくれねぇんだ」

へらっと笑うジェイク。
というか談笑している暇はない。
銃を構えながらじりじりと相手の出方を伺う。

ばっと突進してくる。
案外ウスタナクの突進攻撃を避けるのは容易かった。
しっかり見ていれば、少し横にずれるだけで避けれる。

「ナツキ!あれを落としてきてくれ!」

「!りょーかいっ!」

レオンが指したのはコンテナの上においてあるガスボンベの籠だ。
あれを落としてウスタナクの近くで爆破させればかなりのダメージになるはずだ。

すぐに返事をし、菜月はコンテナの上へよじ登り籠を力いっぱい押す。

ガシャン――

籠に入っていたガスボンベが地面に転がる。
コンテナの上からウスタナクに牽制射撃をして引き寄せる。

「爆破させるわ!離れて!」

ヘレナが叫び手榴弾を投げる。
ウスタナクの足元に転がったそれは数秒で爆発し、ガスボンベに引火して更なる爆破を起こす。
地を揺るがすような爆発が起こり、熱風が頬を撫でる。

それと同時に燃えていた鉄塔がウスタナクを押しつぶすように倒れた。
炎に巻かれてウスタナクは見えなくなったが、安心するのはまだ早かった。



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