中国へ:01
2013年6月30日――
そんなこんなで俺達は中国に向かっていた。 飛行機の丸い小さな窓から俺は外を眺める。夜も遅いため、外は真っ暗だ。 だが、飛行機のアナウンスではもう中国に入っているらしい。 初めての中国に俺は内心わくわくしていた。
「中国の空域に入ったみたいね」
席を外していたヘレナが戻ってきた。俺は窓の外から視線をヘレナに移す。 そうだな、とレオンが相槌を打つ。
心なしかふたりの顔が疲れて見えるのはこの状況からすれば仕方のないことなのかもしれない。
頭を抱えるて苦しそうな顔をするヘレナにレオンがどうしたと尋ねる。
「何故私を当局に差し出さなかったの?あなたの無実を証明できたのに……」
「君ひとりを悪者にして、解決する事件じゃない」
それに、とレオンは付け足す。
「女に振り回されるのには慣れてる」
場を和ませるかのようなレオンのふざけた言葉に思わず俺は笑う。 ヘレナもわずかばかり笑顔になる。
ガクッ――
「ふわっ!?」
機体が上下にがくがくと振動し始めた。 そのせいもあるのだろう照明がついたり消えたりを繰り返す。 どこかから悲鳴が聞こえて機内が騒然とする。
冷や汗をかいて、必死にテーブルを掴んで耐える。
「行くぞ!」
「わ、まってよ!」
揺れが収まったところでレオンが操縦室の方に向かって駆け出した。 レオンとヘレナの後を慌てて追いかける。
階段を駆け上がり操縦室の自動ドアが開く。 2人居るうちの一人の飛行士が倒れているのが目に入った。 急いで駆け寄り俺は首筋に手を当て脈を診る――が、規則正しい音はない。
「どうだ?」
「駄目だ……死んでる」
首を振り、俺は立ち上がる。 もうひとりの飛行士は――
操縦席には気味の悪い蛹が座っている。 一体いつの間に感染したのか分からないが、運の悪いことだ。 俺達の視線を感じたのか蛹の背中が割れる。
菜月はハンドガンを構え、レオンとヘレナの隣まで後退する。
どろりとした白濁の液体と一緒に身体に穴の開いたぼこぼこがついた――レポティッツァが生まれる。 逃げ場のないここでまさかのコイツか……!嫌な敵の出現に俺は舌打ちをしたくなった。
「操縦を任せるわけにはいかないようだな」
「こんなヤツより自動操行の方がましだよ……」
操縦士がいないせいでぐらぐらと機体が揺れる。そんな中でひたすらレポティッツァに攻撃する。 生まれたてだからかなんだか知らないが、ガスを出してこないのは幸いだった。
よたよた、と覚束ない足取りでレポティッツァは此方に来る。
タァンタン――
タァンタァン――
銃のトリガーを戸惑いなく引く。 ……コクピットで銃を乱射するのはどうかと思うんですが、レオン、ヘレナ。 遠慮ない発砲に菜月は引きつり笑いを浮かべた。
しかし、何もしないのは気が引ける。
菜月は遠慮がちに、しかし正確に狙いを定め引き金を引く。 下手に外してコクピットのガラスに当たりでもすれば乗客も自分たちも危険だ。 ある程度のダメージを与えたところで、レポティッツァは天井を突き破り何処かへと逃げ去った。
「逃げちゃった……」
くそ、とレオンが苦々しげに悪態づいた。
『レオン、ヘレナ、ナツキ、聞こえる!?圧力隔壁に原因不明の異常!後部へ行って、状況を確認して!』
ハニガンから唐突に通信が入る。 此方の状況をネットワークで知って態々連絡をくれたのだろう。 因みに菜月も中国に行く前にインカムを貰った。 行動する上でインカムがないのは不便だという事からレオンがハニガンに頼み、送ってもらったのだ。 自分の耳にフィットするそれは何だかくすぐったくて、でもとても嬉しい。 これを付けているだけで、レオンとヘレナと仲間なんだと思う事が出来た。
prev ◎ next
|