- ナノ -

命名、ジェイド



目の前に立つのは、赤い眼をした眼鏡の男。
きらりと反射する眼鏡が非常に怖い。

キャラクターに会えた、嬉しさよりも恐怖が先行するってどういう事ですか。

とか、考えれる辺りまだ余裕がある。多分。

「ぶぶひぃ……(ジェイド……)」

「まったく。これ以上ブウサギを増やすなと前も言いましたよね」

蚊細い声でジェイドの名を呼ぶと、ジェイドは眼鏡のブリッジを人差し指で上げながら、ため息をついた。
私が怒られているわけでもないのに、何故か身体が縮こまる。

「こら!ジェイド殺気を出すな!こいつが怖がっているだろ!」

私を抱きしめ、ピオニーが怒る。怖がっているのは確かだけれども……。
ふぅーとジェイドが再び息を吐き出した。

「いいですか、これ以上増やせば――殺しますからね」

ぱちん、とコンタミネーション現象で槍がジェイドの右手に出現する。
こいつならやりかねない。そう思った私は冷や汗をかいた。
だらだらと全身から流れる汗をピオニーも気付いたのだろう。
身体に回される腕の力が強くなった。

「……そんな事したら、泣くからな!俺が!」

「そうですか」

脱力したのは言うまでも無い。
至極どうでもよさそうにジェイドが答えこれ以上無意味だと思ったのか踵を返す。

「そうだ、ジェイド。とりあえず、風呂入ろうな」

一瞬、誰の事か分からず、視線をピオニーとジェイドに交互に向かわせる。
ぴたりと足を止め、ジェイドが振り返った。
少し口元が引きつっている。

これは……もしかしなくても、あれですか。

「どうしたんだジェイド。俺はこの可愛い方のジェイドに声をかけただけだぞ」

「陛下……ブウサギに人の名前をつけて遊ばないでください」

にやりとしてやったり顔で言うピオニーにジェイドが嫌悪感をかもし出す。
無理も無い。私も嫌だ。
ていうか、なんで私が"ジェイド"なんですか。
とにかく聞きたい事はたくさんあるが、喋れないから意味は無い。

さあ、行くぞ、なんてピオニーは言うと私を抱え上げてそそくさと部屋から出た。

ジェイドから逃げたな、と気付いたのは1分後だった。




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