家畜からペットへランクアップ!
ぽかりと口をあけ、暫く彼を見上げた。
褐色の肌に、少し薄い金色の長い髪、そして高価な服に身を包んだ彼はそう――
「ぴ、ピオニー様!?も、申し訳ございません家畜が逃げ出してしまって……」
は、と気がついた時には遅かった。
がしりと腹に手が回され家畜小屋の主に捕獲されてしまった。
逃げようとじたばたとするが意味は無い。
「なあ……」
「は、はい!何でしょうか、ピオニー様!」
マルクト帝国の天辺であるピオニー・ウパラ・マルクトに声をかけられ、男は少し上ずった声で反応した。
私を持つ手が汗ばんでいて気持ち悪い。
くるっと顔だけをピオニーに向け、彼を見やる。
ピオニーは真剣そうな顔をして私を見つめている。
「そのブウサギ、幾らで買えるんだ?」
「は……はぁ……いえ、これは病気でして、ピオニー様に差し上げれるようなものでは……」
病気、という単語を聞いてピオニーは片眉を上げた。
イケメンがキリっと顔をすると少し怖い。
それは男も同じだったようで、言葉が中途半端なところで止まる。
「そのブウサギがいいんだ」
「え、えぇ、でしたら11万ガルドですが……」
「よし、じゃあ買う」
二つ返事でピオニーはそう言うと、懐から巾着を取り出し金貨を商人に渡した。
渡された商人はというとささっと私をピオニーに渡し、一礼してからそそくさと立ち去った。
その後姿をピオニーの腕の中でだらしない表情のまま見送った。
「お前病気なのか?」
「ぶひぃー……(違います……)」
ピオニーが頭上から尋ねてきたので、とりあえず首を横に振る。
これぐらいの意思表示は相手にも伝わるはずだ。
「だよな、割と瞳ははっきりしてるし」
よいしょと地面に下ろされた。
さっきよりもずうっと上にピオニーの顔がある。
どうしてピオニーがこんなところにいるんだろうと不思議に思った。
ここは多分エンゲーブだと思う。
走り回っているときに気がついたのだが、畑や養ブウサギ場がたくさんあった。
こんな村にどうして一国の主が来ているのか。
「ジェイドに何か言われるかもしれないけどな!」
ははは、と笑う彼に相槌を打つべきなのかどうなのか真剣に悩んだ。
とりあえずはまあ命の危機は去ったのだ。ピオニーには感謝感謝だ。
どうやれば彼に感謝の意を伝えられるだろうかと一頻り悩んだ後、私はすりすりと彼の足に擦り寄った。
「ぶぶぶひぃ、ぶひぃ(ありがとう、陛下)」
「お、甘えてるのか、人懐っこいな、お前」
どうも失敗したらしい。
ピオニーは私が甘えていると勘違いしたようだ。
ああ言葉が伝わらないって難しい。
ソーサラーリングが欲しい。人の言語を喋りたい。
わしゃわしゃと撫でられる。
その温かさを感じつつ、私は小さく息を吐き出した。
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