これからを考えよう
マンホールからアビスの世界にトリップした私――由希はどうやらブウサギになってしまったようです。
それも、野生ではなく家畜の。
野生でも家畜でも、どちらにせよブウサギなんて食べられる運命だ。
逃げ出し防止用の柵に凭れ掛かりながら、うんうん唸る。やっぱり声はぶひぶひだったけれども。
顔をあげ柵を見上げる。
一メートル、もう少しあるか、一メートル十センチ、くらいだろう。
ブウサギ目線だから良く分からないが、多分。
とにかく此処から逃げ出さなくてはブウサギ肉として出荷され、仕舞いには食卓に並ぶはめになる。
折角アビスの世界に来たんだから、それだけは避けたい。というか、死にたくない。
いやまあそれは他のブウサギたちにとっても同じだろうけれども。
私は元人間なのだから殊更食卓に並べられる、なんて考えたくも無い。
……美味しく料理されて食卓に並べられる、自分。
笑顔で食べる誰かさん――嫌だ、絶対に嫌だ。
口元を引きつらせ、もう一度柵を見上げた。
高い。
見上げるだけで首が痛い。
単にブウサギの目線が低いだけなのだが、いつもの視線と違うだけでこんなにも世界が変わるとは新しい発見だ。
それはさておき、飛び越えられるだろうか。
横に張られた板の数を数えながら、私は考える。
そもそも此処から飛び出して逃げたとしてどうするのか。
外には魔物がうようよいるのだ。
鋭い爪も牙も持たないブウサギは魔物に捕獲されてジ・エンドだ。
……どっちもジ・エンドじゃん!!!
此処でのうのうと暮らしてもやがては殺されて食卓に……。
外に出れば魔物の腹の足しに……。
せめて、ライガやガルーダ辺りなら生き残れたのかもしれない。
がっくりと肩を落とし、項垂れる。
どっちにせよ、死ぬ運命ならばまだ家畜として飼われているほうがマシなのかもしれない。
少なくとも今すぐに殺される心配は無いはずだ。
……たぶん。
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