- ナノ -

研究者を捜して三千里(嘘)



ヘンケンという研究者を探すために、私たちは第一研究所に向かった。
研究者なんだから研究所にいるんだろうと思ったからだ。
皆白衣を着て、奇妙な音機関を前にバインダーとペンを片手に険しい顔をしている。
何だかとても声を掛けれる様な雰囲気ではない。まあ私はブウサギだから声を掛ける以前の問題なのだけれど。

「あの〜すいま――……」

「ちょっと!邪魔!!」

「す、すいませんっ!!」

「…………ぶひぶぅ、(……ダメじゃん)」

頑張ってルークが声を掛けたものの、物凄い剣幕で怒鳴られ、ルークは慌てて謝罪している。
へこへこと頭を下げるルークに呆れた眼差しを送る。
そんな私の視線に気付いたルークがむすっと顔を顰めた。

「んだよ、その視線……」

「ぶひぶひぃー(何でもないですぅ)」

何となく私の雰囲気で言葉の意味を感じ取ったのだろう。
ルークはげしげしと私の額を小突きながら、不機嫌そうな顔をした。

「あーもー!探せばいいんだろ探せば!!」

「うるっさい!!君ッ!!」

「う、わ、す、すいません」

「…………ぶひぃ(バカだ)」

うがーと声を上げたルークを傍にいた研究者が迷惑そうに怒鳴った。
ルークが再び慌てて謝罪したのを見て、由希は思わず半目になり小さく息を吐き出した。

第一研究所の奥、そこに二人の男女がいた。
ヘッドフォンのような機械をつけた頭の眩しいお爺さんと、おかっぱ頭のお婆さんだ。
彼らが私たちの探していたヘンケンさんとキャシーさんらしい。
どうやら既に私たちの情報は回っていたようで、ルークが駆け寄ると彼らは難しい顔をした。

「知事達に内密で仕事を受けろというのか?お断りだ」

「知事はともかく、ここの責任者は神託の盾騎士団のディストよ」

ばれたら何をされるか……、と顔色を悪くさせたのはキャシーだ。
取り付く島もない彼らにガイがニコニコ顔で一歩前に出た。

そして、何でもなさそうに言う。

「へぇ、それじゃあこの禁書の復元はシェリダンのイエモン達に任せるか」

少々罪悪感があるが、目的のためには仕方がない。
ガイの言葉に表情を変えた二人を見て、由希は苦笑した。
冗談じゃない、と噛み付き、先ほどの苦い顔はどこへやら彼らは直ぐに私たちの依頼を引き受けてくれた。

「しかし俺達だけではディストに漏れるかも知れない。知事も抱き込んだ方がいいだろう」

「でも私達は知事に追われる立場で……」

ティアが表情を暗くして言うと、キャシーが任せてちょうだいとにっこりと笑った。
行動派の彼らは話が纏まったところで駆け足で研究室を飛び出して行く。
老人とは思えない見事な健脚だ。私はどうでもいい事を考えながら、彼らの背中を眺めていた。


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