- ナノ -

目が覚めたら柵の中でした



……何だか臭い。
つんと鼻にくるのは……例えるならそう、これは家畜小屋の臭い。
ついでに言うと、何故だか周りからぶひぶひという豚のような息遣いが聞こえる。

最近のマンホールの中は豚もいるのか、と妙な事を考えてからいやいやと打ち消す。
何で豚。ネズミならば分かるけれども。

なんにせよ、目を開けて確認しなければ――

ぱちり。

そして、閉目。

ぱちり。

(え、えぇええええええええ!!?)

ウサギのような耳を生やした薄ピンク色の豚がぶひぶひと私を見下ろしているのである。
その顔面を間近でみた私は心の中で悲鳴をあげ、思わず退いた。

そしてもう一度そのウサギ豚をよくよく眺めてみる。
何処かで見たことがあるそのフォルムに暫し考え込む。

何処か、

そう、何処かで見たような……。

(そうだ!アビスのブウサギだ!)

見覚えがあると思えば、アビスに出てきた家畜だ。
偉いぞ、自分、と思い出した自分を少しばかり誉める。

で、硬直。

どうして目の前にこのブウサギがいるんだろう。
これはまさか俗にいう"トリップ"って奴か!!
そこまで考え込み、私のテンションはうなぎのぼりだ。
なんてったって大好きなゲームの中に入れたのだ。嬉しくない訳が無い。

夢オチ、という線もない事はないが、トリップと考えた方が個人的には楽しい。

ジェイドとかルークとかガイとかティアとかイオンとかピオニーとか……

登場人物である彼らの顔を思い描き、会えるだろうか、と思わず顔をにやつかせる。
会うためにはとりあえず時間軸の確認と此処が何処かを確認しなくてはならない。

よっこらせ、と重い腰を持ち上げ、さあ歩き出そうとして、私は可笑しな点に気がついた。

「ぶ、ひ?(ぇ、え?)」

やけに地面が近く、空が遠い。目の高さが子供以下だ。
思わず漏れた声は人間のものですらなかった。

恐る恐る、手を前に突き出し視線を下げた。

薄ピンク色の腕に茶色いちょこんと二つに分かれた爪。

「ぶ、ひぃぃいいいいいいいいい!?!??(え、えぇえええええええええ!?)」


思わず悲鳴を上げた私は悪くない。多分。



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