- ナノ -

ベルケンドの宿屋




規則正しい振動に私は意識を浮上させる。
お腹辺りに誰かの腕が回されているし、前足も後ろ足も地面についていない。
誰かに抱えられているようだ。

「ぶ……」

誰、と首だけを動かし、頭上を見上げた。

「お、ジェイド、目が覚めたのか」

きらきらと輝く金髪が私を見下ろして笑う。
ああガイに抱えられていたのか、と考えてから暫し硬直する。
どうして、こうなっているんだろうか。

「あら、目が覚めたのですね。良かったですわ」

ガイの隣を歩いていたナタリアも気付き、にっこりと微笑みかけてくれた。
と、同時に思い出す。
イニスタ湿原でベヒモスから逃げた辺りからの記憶がまったくない。
ナタリアを救出してから橋まで逃げたところまでは覚えているのだが……。

「突然倒れるから驚いたんだぞ」

「ぶひぃ……?(はい?)」

倒れる?誰が、私が?
倒れた記憶なんて……とそこまで考えてから、あの時凄く気分が悪かった。
視界がぐるぐる回ってたし、吐き気もあった。
もしかして、気絶してしまってたのか。記憶がないのもそのせいだ。

よいしょ、とガイに降ろされ漸く私は地面に足をつけた。

「これから宿屋に行くんだ」

そこまで歩けるかい?私を見下ろして訪ねてきたガイに小さく首を上下させる。
私の返事にガイは満足そうに頷き、笑みを浮かべた。

まだ少し身体は重かったが、それは恐らく目覚めてから間もないせいだろう。
気絶する前のような気持ち悪さはない。
皆の後を追うように宿屋へ向かった。

宿屋に入ると、アッシュがいつも通りの不機嫌そうな顔で此方にやってきた。その隣にはノエルがいる。
アッシュに助けられるんだったっけ。でも、確かアルビオールは飛べなくなってたはず……。
飛行譜石を失っても、アルビオールは水上走行が可能だったのでノエルも無事脱出できたんだったっけ。
この世界の乗り物って殆ど水陸両用とか空海両用とかばっかりだな。

「イオンからこれを渡すように頼まれた」

アッシュがジェイドに渡したのは古びた本。
かなり昔のもののようでカバーは所々ひび割れており、中の紙は黄ばんでいる。
数ページに目を通してから、ジェイドは驚いたように声を上げた。

「これは創世暦時代の歴史書……。ローレライ教団の禁書です」

「禁書って、教団が有害指定して回収しちゃった本ですよね」

中身見ただけで分かるなんて、ジェイドはやっぱり凄いと思う。
どれが禁書かなんて私には分からないだろう。第一フォニック文字が読めないし。

読み込むのに時間が掛かる。というジェイドの言葉に誰も文句は言わなかった。
この面子で誰よりも頭が回るのはジェイドしかいない。

今日はこの宿屋で一泊する事に決まったのです。



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