アッシュと。
酷い仕打ちだと思う。
由希はただ一人、バチカル城の前で座り込んでいた。
高い高いバチカル城を見上げ、小さく息を吐き出した。
こうなった訳はルーク達がここにつれて来られたときまで時間を戻る。
神託の盾兵に囲まれながら、私達はバチカル城までやってきた。
私は初めて見るバチカルに感動しながら、彼らについて城まで向かった。
城に近づくにつれてルークとナタリアの表情は暗く重いものに変わっていくのを気にしながら、
私はこれからの事を考えていた。
その時だった。
がすっ。お尻部分にとんでもない衝撃が走り、私はサッカーボールのように数回バウンドしてべしゃりと地面に叩きつけられた。
突然すぎるそれに私は痛みを堪え、ぐるんと首を回し背後を確認する。
「貴様、勝手な真似をするな!」
「いやぁすいません、城にブウサギなんて入れては失礼だと思いまして」
にっこりと胡散臭い笑みを浮かべるジェイド。
表情とまったく合っていない笑っていない赤い目が私を見つめた。
小さくジェイドが音を出さずに口を動かす。
ま、っ、て、い、な、さ、い。
待っていなさい。足手まといだと、まだ言うのか。
蹴られた私はただただ彼らが連行されるのを見つめていた。
そして話は冒頭へ戻る。
私は座り込んだまま、またため息をついた。
このままではナタリアとルークが処刑されてしまう。
何とかしなければ。重い腰を上げ、由希は城に向かって歩き出す。
と、横に誰かが来た気配がする。
は、と顔を上げると赤い髪、黒い神託の盾の服――アッシュだ。
アッシュは私をちらりと一瞥するとさっさと歩き出す。
「ぶっひぃいいい!!!(待ってぇえええ!)」
「何しやがる!離せ!」
服のひらひらとした部分に噛み付き私は必死にアッシュを引き止める。
アッシュは突然しがみ付いてきた私に眉間の皺を一本増やし睨む。
そんな彼の睨みには屈さず、私は齧り付いた服の裾を離さない。
ジェイドは私に待てと言ったけれど、このまま待ってるなんて出来ない。
「――チッ、ついて来たきゃ勝手にしろ!」
面倒そうに舌打ちをしてアッシュは私を振り払い城に向かって歩き出した。
私もその隣を着いて歩く。ちらりと横目でアッシュが見てきたが、特に何も言われなかった。
アッシュと共に城の地下牢へと向かう。
そこには確か、ルークとナタリアを除くメンバーが入っていたはずだ。
アッシュは忍び足で獄守の背後に近づくと、その首筋に向けて手刀を打った。
ぐ。とくぐもった呻き声を上げ獄守は倒れこんだ。
倒れた獄守の腰辺りをアッシュは弄ると、牢の鍵であろう鍵束を此方に投げてきた。
「俺は急ぐ、仲間を助けたきゃ、それで開けるんだな」
「ぶひっ!?(はぁっ!?)」
投げつけられた鍵束がかしゃんと音を立てて地面に落ちた。
アッシュはぽかんとしている私を他所にさっさと走って何処かへ行ってしまった。
暫し鍵束を見つめ硬直していたが、そんな暇はないのだと思い出し私は鍵束を咥える。
牢獄は一つだけじゃない。
ゲーム内では牢獄は一つしかなかったが、現実は違う。
たくさんある牢の前で私は立ち止まる。
(どれだよっ!)
心の中で突っ込みながら、不意に鼻を掠めるいい匂いに私は目をぱちくりさせる。
さっぱりとしたこの爽やかな匂いは男性のつける香水の匂いだ。
……そういえば、この匂い、何処かで嗅いだ事あるような……。
はて、何処だったか、と考えて赤い眼の彼が脳内を掠めた。
ジェイドだ。そうだ、ジェイドってこんな匂いだった。
すんすんと鼻をひくつかせながら、私は匂いのする方へ歩いていく。
とある一つの牢の前で匂いは止まった。中から数人の気配がする。
恐らくここに皆がいる。
私は鍵束を咥えなおし、前足を扉に掛け鍵穴に鍵を突っ込んだ。
入ったものの、鍵は回らない。
(もう!どれ!?)
違う鍵を咥え、もう一度試してみる――が、開かない。
数度同じ動作を繰り返し、漸く鍵がくるりと回った。
かちゃ。
小さな音を立てて鍵が外れた。
え、と中から驚く声がして、私はドアノブを引き扉を開けた。
「え!ジェイドッ!?」
アニスが驚いたように目をまん丸にして此方を見つめた。
ジェイドもまさか私が助けに来るとは思わなかったらしく、驚いているように見える。
「大佐!早くルーク達を助けに行きましょう!」
いち早く我に返ったティアがジェイドに声をかけ、ばっと駆け出した。
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