- ナノ -

譜石に刻まれた、秘預言。




イオンに会うためダアトにやってきた。
ダアトの教会の前では幾人の男が集まっていた。どうも、船を出せない事が不満らしい。
船を出せと言えどもいつ崩落が起きるかもわからない状況で船を出すなど命を捨てるようなものだ。

その男達の中心にいた教団の服を着た初老の男――トリトハイムさんが何とか宥め、男達は渋々去って行った。

邪魔者がいなくなったところで私達は教会に入り、すぐ左手にある扉を開けた。
大きな譜陣の描かれたそれにアニスはぴょんと飛び乗り、右手を高く上げる。

「えっと……"ユリアの御霊は導師と共に"」

アニスの身体が光りに包まれたかと思うと次の瞬間にはいなくなっていた。
それに倣い全員が合言葉と共に消えた

――私を残して。

(ちょっとぉおおおおおお!!!?)

ぶひぶひではこの譜陣を突破できないらしく、何度も合言葉を唱えるがさっぱり譜術は発動しない。

そうこうしている間にルーク達が戻ってきたため、私はほっと息を吐き出した。
急ぎ足で図書室に向かうと、見上げるばかりの本の押し詰められた棚の前にイオンが佇んでいる。
本を読んでいたイオンはぞろぞろとやってきた気配を感じたのかふと顔を上げた。
見る見るうちに目が大きく見開かれ、イオンは本を取り落としそうになりながら声を上げた。

「皆さん!?どうしてここに……」

驚くイオンをよそにルークは早口に現状を説明した。
イオンは少々考え込み、それからゆっくりと口を開く。

「なるほど。それは初耳です。実は僕、今まで秘預言を確認したことがなかったんです」

それはイオンがレプリカだから、という事を表している。
ローレライの導師ともあろう人間がどうして今まで秘預言に触れないなど、ありえるだろうか?
レプリカであれなんであれ、イオンはイオン。それは何度だってゲームをプレイしているときに思った事。

レプリカルークでも、オリジナルルークでも、確かにそこにいる。
そこで息をして、ちゃんと存在している。

助けれるなら、助けたい。

アッシュも、ルークも、イオンも……シンクだって。

「ジェイド?ほら、行くぞ?」

「ぶひっ!(あ、はい!)」

声をかけられて顔を上げると既にイオンを先頭に図書室から出て行こうとしている。
あわあわと私は慌てて扉の前で待つガイのもとへと駆け寄った。
そんな私をガイは苦笑しながら、扉を開けて私に先に出るよう促した。

とても、紳士です。ガイ。

青く輝くステンドグラスが美しい。
ここは礼拝堂だ。その奥には今まで見つけられた第一から第六譜石までが結合された巨大な譜石が鎮座している。
イオンは譜石の前に立つと、目を閉じそっと手を翳した。

きらきらと譜石が光り輝きだし、それに合わせてイオンの身体も光りだす。

「ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり――」

イオンがゆっくりと譜石を詠んでいく。

――名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう。
ND2002。栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。名をホドと称す。
この後、季節が一巡りするまでキムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう。
ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ、鉱山の街へと向かう。
そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す。
しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。
結果、キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる。

そこでイオンの言葉は終わるが、私の心の中では続いた。

――やがてそれが、オールドラントの死滅を招くことになる。
ND2019。キムラスカ・ランバルディアの陣営は、ルグニカ平野を北上するだろう。
軍は近隣の村を蹂躙し要塞の都市を囲む。
やがて半月を要してこれを陥落したキムラスカ軍は、玉座を最後の皇帝の血で汚し、高々と勝利の雄叫びをあげるだろう。
ND2020。要塞の町はうずたかく死体が積まれ、死臭と疫病に包まれる。
ここで発生する病は新たな毒を生み、人々はことごとく死に至るだろう。
これこそがマルクトの最後なり。
以後数十年に渡り栄光に包まれるキムラスカであるが、
マルクトの病は勢いを増し、やがて、一人の男によって国内に持ち込まれるであろう。
かくしてオールドラントは障気によって破壊され、塵と化すであろう。

これがオールドラントの最期である。

ユリアが何故、第七譜石を隠したのか。
それは人々に預言を守って欲しくなかったから。
預言は守る為にあるのではなく、数ある選択のうちの一つ。
数ある未来を、自由な未来を歩んで欲しかったから。

ユリアはきっと、できる事なら全ての譜石を隠したかったに違いない。
それはダアトの裏切りにより出来なくなってしまったのだけれども。

「見つけたぞ!鼠め!!」

鎧をがしゃがしゃと軋ませながら、駆けてきたのは神託の盾兵だ。
皆剣を抜き、此方をじろりと睨んでいる。

素早くジェイドが詠唱に入ったがそれはすぐに止められてしまった。
宙に浮く安楽椅子にぐったりとしているノエルの姿によって。
その椅子の下には珍しく自分の足で立っているディストの姿がある。ディストの隣にはモースが神託の盾兵と共にいる。

「はーっはっはっはっ!いい様ですね、ジェイド!!」

とても嬉しそうにディストは大笑いをする。
ジェイドを黙らせれたのが嬉しいんだろうなぁ……と思いながら私は心の中で苦笑した。

ノエルを人質に取られては身動きが取れない。

「連行せよ!」

ディストの言葉で私達は無理やりダアトの船に乗り込まされてしまったのです。




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