- ナノ -

セフィロトの暴走




ザオ遺跡のパッセージリングを操作し、無事ケセドニアとエンゲーブ周辺をゆっくりと魔界に降下させることが出来た。
勿論ユリア式封咒の解除は私がやった。
瘴気が身体に入ってきて気持ち悪かったが、これもティアのためだと思えば耐えれる辛さだ。

それはさて置き、とうとう皆に私が譜術を使えることがばれてしまった。
いや、まだまだ発展途上ではあるが、確かにティランピオンにはダメージを与えれた。
単にこの遺跡に第二音素が多かったからロックブレイクを偶然発動できたのかもしれない。

ジェイドを除く全員が目を丸くして私を凝視する。
その視線に耐え切れず、私は視線を横へ逸らす。

「譜術を使えるなんてすげぇな!」

ルークが私に駆け寄り、よしよしと頭を撫でてきた。
私はその気持ちよさに目を細め――てれるわけもなく、ジェイドのにっこり笑顔を見ないように首を曲げるのに必死だ。

悉く目を逸らす私にジェイドは諦めたようで小さくため息をつき、まあいいでしょう。と一言。
そしてさらに一言。

「解剖すれば、分かる事ですから」

しないでください。絶対。駄目絶対。目の笑っていない笑顔が凄く怖いです。
あれ、可笑しいな……"本気"って顔の真ん中にでかでかと書かれている気がする。

そんなこんなで私を解剖するかしないかは有耶無耶になり、ルーク達はウイングボトルを使って遺跡から脱出する。
遺跡を出るとさんさんとしたレムの光りはなく、代わりに紫色の空が広がっていた。
風も熱も、魔界に下りた砂漠にはない。

私達はとりあえず、ケセドニアに向かう。
ケセドニアに入ると同時にアルビオールの操縦士であるノエルが手を振りながら駆け寄ってきた。
ゴーグルをつけ、柔らかな金髪に大きくくりくりとした目。予想以上の可愛さだ。

魔界の空を飛んでみたい、というジェイドの要望があり一行はケセドニアの外に停められているアルビオールに乗り込んだ。
アルビオールに乗り、魔界を探索する。

「うわ!あのセフィロトツリー可笑しくないか?」

私は窓を覗き込み、ルークの指す場所を見た。
外殻大地を支えるセフィロトツリーが強く輝いた、と思えば弱弱しくなったりと点滅を繰り返している。

「やはりセフィロトが暴走していましたか……。パッセージリングの警告通りだ」

何らかの影響でセフィロトが暴走して、機能不全に陥っているとジェイドが説明した。
もしもセフィロトツリーが機能不全になってしまえば、外郭大地は崩落してしまう。

「パッセージリングが耐用限界と出ていました。パッセージリングが壊れればツリーも消えて外殻は落ちます」

そう遠くない未来にね。ジェイドの言葉に全員が顔を青くした。
冷静にジェイドは何かを考え込むように、顎に手を当てて足元を見つめている。

セフィロトを操作するパッセージリングが壊れてしまえば、ケセドニアは瘴気の沼に沈む。

対処法など思い浮かぶわけもない。
無言になってしまう空間で私はそろそろと全員の顔を見回した。

「――イオン様」

ぽつりと、アニスの声が空気を振動させた。

「イオン様なら……ユリアシティの最高機密を調べる事が出来ると思う……」

今はここにいない導師イオンの顔を思い浮かべる。

穏やかに笑う彼はいなくなってしまう。モースにより秘預言を詠んで。
今ではない、しかし、近い未来を思い浮かべ私はぎゅうと手に力をいれ、目を閉じた。


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