ばれてしまったのです。
アスターの力添えもあり、私たちは砂漠にあるザオ遺跡にやってきた。
水分補給のためにオアシスに寄りそこにいたアッシュと話をして、
私達はザオ遺跡のパッセージリングを操作しケセドニアをゆっくり降ろす事になった。
はじめて見たアッシュはイメージ通り眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな顔をしていた。
私なんかが近づくとエクスプロードあたりで丸焼きにされそうだったので、私はジェイドの隣でアッシュを観察していた。
オアシスでの事はさて置いて、遺跡内部は外とは比べ物にならないくらい涼しい。
少々砂っぽいのが残念だが暑いよりはマシだ。
それも、敵がいなければ、の話だが。
バットやらアーススピリッツやらが事あるごとに襲い掛かってくる。
その度にルーク達が応戦し、魔物を蹴散らしていく。
ルークが切りかかり魔物がひるんだ瞬間をジェイドの譜術が炸裂する。
更に追い詰めるようにナタリアの弓が敵を貫く。
ぴったりと息の合ったその攻撃に私は感嘆する。
長い間旅してきただけの事はある。
砂っぽく、足場の悪い道を辿り、随分と奥まで進んできた。
さあパッセージリングまで後5メートル、というところまできた時だった。
「危ないっ!」
地ならししながら突撃してきたのはサソリのような形をした大きな魔物――ティランピオンだ。
猛毒を持つ尾が鋏のようになっておりそれがかしゃかしゃと不気味な音を立てる。
「お前はミュウと下がってろ!」
肩に乗っていたミュウを私のほうへ投げつけるとルークは腰の剣を抜き、ティランピオンに向かっていく。
頼もしいと思うと同時に、自分の無力さを突きつけられた様な気がした。
前衛であるルークとガイが切りかかるが、どうも攻撃を弾かれているようでいまいち効果がない。
「――っく」
「ガイ!すぐに回復いたしますわ!」
尻尾がガイの腕を霞め、じわりと赤い血が滲んだ。
弓を番えていたナタリアが素早くガイの傍へ駆け寄り、治癒譜術を唱えている。
「大地の咆哮 其は怒れる地竜の爪牙、グランドダッシャー!」
後方で詠唱していたジェイドがグランドダッシャーを発動させる。
ティランピオンの足元の地面が隆起し、ティランピオンを打ち上げる。
『おぉおおおお!!!』
地面に叩きつけられたティランピオンは怒ったように声を上げた。
びりびりと空気が震え、その声は反響する。
「ルーク!前っ!」
「ぁっ……うあっ!!?」
ティアが注意したときにはもう遅く、ルークは長い尾に叩き飛ばされていた。
瓦礫に突っ込み、ルークの姿が見えなくなる。
誰がどう見ても押されているのは明らかだった。
アニスはトクナガで必死に叩いているが物理攻撃は効果が薄い。
しかし前衛であるルークとガイが負傷している今、アニスが前衛に行くしかないのだ。
ごくり、と私は生唾を飲み込んだ。
もしかしたら、負けるかもしれない。もしかしたら、死ぬかもしれない。
最悪の状況が脳裏に浮かんでは消えてを繰り返す。
背中に乗っているミュウも不安そうに戦闘を見つめている。
なんとか、しなきゃ。
すぅっと息を吸い込み、そして吐き出す。
目を閉じ、音素を感じる。
地下だからだろうかここはどうも第二音素が多いようだ。
茶色い音素を身体の中に集める。
茶色だけを。それ以外は外へ出していく。
充分に第二音素が溜まったら、詠唱をして音素を譜術として放出する。
譜術の基本を頭に思い浮かべながら、私は閉じていた目をゆっくりと開け、ティランピオンをにらみつけた。
「ぶひぶひぶひぃ!ぶひぶひ!(狂乱せし地霊の宴よ!ロックブレイク!)」
地面が隆起しティランピオンはその不意打ちに足をふら付かせ怯んだ。
ジェイドのグランドダッシャーよりかは格段に威力は低いが敵の動きは止めれた。
突然のロックブレイクに前衛に復帰したガイが驚いた様子だったが、何も言わずにティランピオンに切りかかる。
ティアに治療してもらっていたルークも遅れながらも駆けていく。
二人が前衛に戻った事でアニスが譜術の詠唱に入る。
何とか持ち直したルーク達に私はほ、と安堵のため息をついた。
しかし、ブウサギはTPが少ないのか何なのか、譜術を一度使っただけで身体が重くなる。
単に私の精神力が弱いからか、譜術の訓練をしたらないからか。恐らく両方だろう。
私の微妙な手助けもあり、何とかティランピオンは倒れてくれた。
「なあ、ジェイド、さっきのロックブレイク……あんたがやったのか?」
剣を鞘に収めながら、ガイがジェイドに尋ねる。どうやら気になっていたらしい。
私はどきりとして数歩後ろに下がり、ジェイドの視界から外れる。
「いいえ、私はやっていませんよ?」
ちらり、とジェイドの視線が此方に向き、釣られてガイも私を見た。
意味ありげなジェイドの視線に私の心臓は早鐘を打っている。
「ブウサギのジェイドがどうかしたのか?」
「いやー私も目を疑いましたよ」
ぎくり。身体中から冷や汗が流れ出る。
かつんかつん、とジェイドがブーツのヒールを鳴らしながら此方へ歩み寄ってくる。
「ブウサギが、譜術を使うなんてね」
にこーりと笑うジェイドがこんなに怖いのだと初めて知りました。
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