- ナノ -

砂漠の街、ケセドニアへ




鼻先を掠める砂に、私は小さなくしゃみをした。
砂漠が近いせいだろう。頬を撫でる空気は熱く、そしてざらざらとしている。

(……ここがケセドニアかぁ……)

バザールでは果物や鉱石、はたまた響律符らしきアクセサリーが所狭しと並んでいる。
ブウサギ目線ではそれらを上手く見ることが出来ないのが非常に残念だ。

りんごにイチゴにバナナ――

並べられている食材は地球と大して変わらないようだ。

「ジェイド、りんごが食べたいの?」

「ぶひ、ぶひぶ(いや、別に)」

「あの、りんごひとつ頂けるかしら」

別にいらないと言ったのだが、どうも間違えられたらしくティアは果物屋の婦人に声を掛けている。
はい、と目の前に差し出された真っ赤に熟れたりんごを私は暫し見つめる。

「遠慮しなくていいのよ」

いや、別に遠慮はしていないんだけどなぁ。と思いつつも、
ティアの好意を無下にするのは気が引けたためりんごに鼻先を寄せかじりついた。
口の中に広がる甘みに私は頬を緩め、更に二口、三口と食べる。
オールドラントのりんごは地球のものより甘みが強く、甘い物好きな私としては嬉しい。

あっという間に私はりんごを食べ終え、ぶひ、とひと鳴きしてティアを見上げた。

くすくすと笑うティアはとても元気そうだ。
良かった、瘴気を取り込んでいないから体調も万全みたいだ。

それにしても色々と大変だ。
暫く離れていたナタリア達合流したのはいいものの、
モースによってナタリアがインゴベルト陛下の子ではない事を言われナタリアはすっかりと落ち込んでしまったし、イオンは一度ダアトに戻ると言ってモースと共に行ってしまった。
キムラスカ軍を止める事もできず、私達はケセドニアで立ち止まってしまっている。

今はジェイド達が国境を越えるための抜け道を探している最中だ。
ぶっちゃけるとあそこの酒場に行けば簡単に越えれる。合言葉があれば、の話だが。

まだ皆あの酒場に気付いていないようだし、そろそろ教えてあげよう。

「え?何、どうしたの?」

くい、とティアの服の裾を噛み私は軽く引っ張り、それから酒場に向かって歩き出した。
ティアがちゃんとついてきているのを確認し私は酒場の扉を開け、中に入る。
中はがらんとして誰もいない。唯一いるのは扉を守る男のみ。

「こ、こは……?」

私は鼻先で扉を守る男を指した。

「ぁ!もしかして……ジェイド凄いわ!」

皆を呼んでくるとティアがぱたぱたと酒場から走って出て行った。

全員を連れてティアが戻ってきた。
ルークが扉に近づき、男に尋ねる。と、再び誰かが酒場に入ってきた。
赤い服に赤い髪の女、それから海賊のような帽子を被った細い男と太い男の二人。漆黒の翼だ。

「あんた達合言葉を買わないかい?」

「おいおい、あんたら幾らで売ろうってんだ」

ガイが半目になりながら、漆黒の翼に尋ねた。
小太りな男――ウルシーが人数を数える。

「六人でがスから……」

「ミュウもジェイドさんもいるですの!」

「八人でがスから8000ガルドでやんスな」

――金額が増えたのは決して私のせいではない。
ただ思うのだが一人1000ガルドで国境を越えれるのなら安いだろう。
まあ普段無料だから高く感じるのは仕方ない。

可愛くない方のジェイドが彼らを脅し、私たちは何とかお金を払わず国境を越える事が出来た。

が、再び問題が発生した。
そのままバチカルへ向かうためケセドニアを出ようとした瞬間にタイミング悪く入り口が封鎖されてしまったのだ。
ああ、そういえばケセドニアも崩落の危険があるんだった。

ばたばたと慌しくアスター邸に戻った彼らを私は見送りひとりゆっくりとその後をついていった。





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