戦場横断!
「ここで一旦休憩を取りましょう」
ジェイドの言葉で、人々は足を止めた。
辺りはすっかりと暗くなってしまっている。
今日はこの辺りで夜が明けるのを待つらしい。
「荷物を下ろしてあげるわ」
荷物をくくりつけたままの私を見たティアが駆け寄ってきて、荷物を下ろしてくれた。
すっかり軽くなった身体に私はぴょんと跳ねて感謝の意を込めてティアの足に擦り寄った。
そんな私にティアはくすくすと笑い、小さな声で凄く可愛い……と呟いた。
由希はふらふらと人々の表情を見ながら辺りを歩く。
辺りに敵の影はないようだ。
最後尾にはマルクト軍がいるし、もしもの時はルーク達が駆けつけるだろう。
私は最前列に戻るため、回れ右をして歩き出した。
まだ薄暗い夜明けから、由希達は動き出した。
早く移動しなければならないのは由希も分かっているのだが、とても眠い。
私はのそのそと足を動かしながら、ルークの後ろを遅れないようについていく。
人々を移動させるのは非常に大変だ。
下手に早く歩きすぎれば後ろが遅れてしまうし、遅すぎれば崩落に巻き込まれてしまうかもしれない。
「きゃあああ!」
突然背後から聞こえた悲鳴に由希はぎくりと身体を振るわせた。
どうした、と声を上げて駆け出すのはルークだ。
背後を確認すると神託の盾兵が民間人に切りかかろうとしている。
ルークは苦い顔をして神託の盾兵を切り殺す。
どちゃ、と神託の盾兵は赤い血を流しながら地面に倒れた。
――殺した。
地面に倒れ、ぴくりとも動かない神託の盾兵を私は凝視する。
血の生臭い臭いが嗅覚を刺激する。由希はその死体から遠ざかりたくて後ずさりした。
こうも簡単に人は死んでしまうんだなと、どこか私は客観的に思う。
目の前の死を素直に受け止める事が出来なかった。
ローテルロー橋があと少し、というところで日が暮れてしまったため再び野営する事になった。
由希は荷物を下ろしてもらいぼんやりと星空を見上げた。
地球よりもずっと綺麗な星空が頭上には広がっていた。
ここは地球よりも死が近い。
市場では魔物から身を守るための大きな刃物が並べられている。
けれどもそれは魔物だけではなく、人を切る事だって出来る。
「ジェイド、」
誰かが名前を呼び、ぽすと背中に手を置いた。
顔をあげ、隣を見ると泣きそうな顔をしたルークがいた。
「俺、沢山の人の命を奪っちゃったんだ……」
アクゼリュスの事か、と私はすぐに気付いた。
何も言わずにルークの言葉に耳を傾ける。
「だから、償いたいって思ってるんだ」
でも、とルークは続ける。
「償うって、難しいな……」
(ルーク……)
私は俯けられたルークの顔を覗き込むように見上げた。
翡翠の瞳からほろりと一粒の雫が零れ落ち、ぽちゃんと鼻先に当たって弾ける。
泣いている。
ルークが、泣いている。
ゲーム内では落ち込んでいるシーンは沢山見たけれど、泣いているシーンはなかった。
だから、少し驚いた。私は目を丸くしてルークの瞳から落ちるそれを見つめる。
「……ぅ、うぅ……」
声を押し殺しながら、ルークは涙を零す。
声を掛ける事も出来ず私はただただルークの傍に寄り添う事しか出来なかった。
そんな自分をとても歯がゆく思った。
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