- ナノ -

私だって役に立ちたい



所変わって由希達はエンゲーブにいた。
ただし、ナタリア、ガイ、アニス、イオンはカイツールで別れたためここにはいない。
エンゲーブはゲームで見たとおりのどかな空気だったが、行き交う人々の表情は暗い。
アクゼリュスに続き、セントビナーが崩落し、更には戦争が始まってしまったのだ。無理もない。

私を除くルーク達は村長であるローズ夫人に話を付けに行っている。
いつも通り私は邪魔者扱いである。

小さく息を吐き出し、由希はローズ邸の前に座り込んだ。

瘴気を身体に入れてしまったせいか、先程から具合がどうにも悪い。
小さく息を吐き出し、私は目を閉じた。

「ジェイド、気分が悪いのか?」

「ぶひぃ……(最悪です)」

声を掛けられ瞼を上げるとルークが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
元気のない鳴き声を上げるとルークはぽんぽんと頭を撫でてきた。

「少し休んでろよ、俺達は村の人達を集めてくるから」

休め、と言ってくれたルークに感謝しながら、私は再び目を閉じた。



――……ぃど……。


――じぇ……ど……。

「ジェイド、起きろ」

とんとんと背中を叩かれる衝撃と鼓膜を揺らす声に由希は重い瞼を上げる。
どうやら知らぬ間に寝てしまっていたようだ。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す私にルークは苦笑し、さあ行くぞ、と声を掛けた。

どうやら民間人を移動させる準備が整ったようだ。

村の入り口には荷物を抱えた人々が集まっている。
ジェイドもティアも大きな荷物を抱えている。
その足元にはルークが持つであろう荷物が置かれている。

ゲーム内では彼らは何にも持っていなかったけれど、実際はそういうわけにもいかない。
人々の分の食料も余分に持っていかなければならないし、負傷した場合の傷薬や包帯もいる。
私は暫し考えて、自分の背中を見た。広く空いている。
もう一度私は荷物を見やり、そして背中を見た。

ここで役に立たなければ何処で役に立つ?

私はジェイドの足元に駆け寄り、荷物を引っ張った。

「こら!ジェイドそれは遊ぶものじゃないぞ!」

荷物にかじりついた私を慌ててルークが止める。
大方私が玩具だと思って噛んでいると勘違いしたんだろう。
違う、私が言いたい事はそうじゃない。

「ぶひ!ぶぅぶひぶひ!!(違う!私も荷物を持つ!)」

「荷物を持つと言ってるですの!」

ミュウがルークの肩から降りて、私の通訳をした。
その言葉を聞いたルークが目を丸くした。

「いいのか、お前……」

私はルークの顔を見上げ、しっかりと頷いた。
ありがとう。ルークはそう言って頭をひと撫ですると、私の背中に荷物をくくりつけた。

戦闘が楽になれば、という想いから由希はジェイドとティアの荷物も半分ほど引き受けた。
ずしりと身体が重くなったけれども、これぐらいなら問題ない。

「じゃあ、皆さん、離れないように俺たちについてきてください!」

ルークのその一声で人々はゆっくりと動き出した。




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