- ナノ -

シュレーの丘





三つの譜石にミュウファイアを当てて隠された入り口を出現させる。
いいなぁ、ミュウは役に立てて。という心の呟きはさて置いて、中へ入る。

ぎらぎらと光る模様が目に痛い。
いったいどういう原理で光っているのかさっぱり分からない。
それに床は透けているのに何故か歩ける。ガラスでも張ってあるのだろうか。

落下防止用の柵もないので私はなるべく真ん中をおっかなびっくり歩く。

パッセージリングを見つけたガイが駆け寄り色々と確認する。
さすが、音機関好き。

「ただの音機関じゃないな。どうすりゃいいのかさっぱりだ」

どうやら創世暦の音機関は彼でもお手上げだったようだ。

私は一人奥の方に行き光っている譜陣の上に乗ってみる。
確かここの譜陣をどうにかしなくちゃいけなかった。
紫色に光っている譜陣を見つめてから私は三つある奥に続く道を見た。
そう難しい仕掛けではなかったと思う。

「おや、ジェイドどうかしましたか?」

「ぶひ〜(これ)」

てちてち、と右手で譜陣を叩き、ジェイドを見上げた。
私の下の譜陣に気付いたジェイドが屈み込み、調べ始めた。

「これをどうにかする必要がありますね」

そう言ったジェイドに私は更にそこに続く奥の道を今度は鼻先で指す。
そんな私にふむ、とジェイドは顎に手を当てて少し考え込む素振りをした。

ルーク達を呼び、奥に向かうよう促した。

早速動き出した面子に私も同じように最後尾をついて行こうとした。
――が。

「はい、何が起こるかわかりませんので……分かりますね?」

どーんと立ちはだかるはマルクト軍大佐。
相変わらずのいい笑顔を向けてくる彼に思わず私は顔を引きつらせた。

待て、とそういう事ですか。

確かにこの先には魔物がいるけれども、別に彼らがいれば大して脅威じゃないはずだ。
それなのにジェイドは私を邪魔者扱いする。

きぃいい!!と某どこぞの六神将のような叫びを心の中で上げながらも私は渋々その場に腰を下ろした。
腰を下ろした私にいい子ですね、とジェイドは頭をひと撫ですると先に進んだルーク達の後を足早に追いかけていった。

……ジェイドは私が嫌いなんだと思う。
いつも私を邪魔者扱いしてくる。かなりポジティブに考えて危険な場所に行かせない様にしてる、とか?
いやいやあの陰険ジェイドがただのブウサギにそんな優しい事考えるだろうか、いや絶対考えない(反語)
ぐるぐると考えてるとちょっと泣きそうになってきた、やめよう。

ルーク達が戻ってくるまで時間がある。
私は小さく息を吐き出し、遥か頭上まで伸びるパッセージリングを見上げた。
地球では考えられないような建築物だ。変にキラキラしているし。
この世界から見れば地球だって同じようなものなのだろう。

それはさて置き、私は再び譜術について考え始めた。
音素っていうのは火だとか水だとか、属性があったはずだ。
ならイメージとしては水は水色、火は赤色だ。
それを念頭に置いて、集中すれば音素を集められるんじゃないだろうか。

(よし……)

深呼吸を一回。私は目を閉じて、第四音素を集める事に集中する。
第四音素は水、水は水色だ。

す、っと私の周りの温度が低くなったような気がする。

(詠唱は確か……"荒れ狂う流れよ"だっだっけ?)

ひやりとした空気が鼻先に触れ、私はぷるっと身体を振るわせた。
充分に第四音素が集まったと感じた私は息を吸い込み、口を開き譜を詠う。

「ぶひぶぶぅぶひぶ!ぶひぶひ!(荒れ狂う流れよ!スプラッシュ!)」

全部ぶひぶひだからかっこよくもなんともないけれども。
私はドキドキしながら前方を見る。

「うわぁ、冷てっ!?」

ばしゃん――

水の塊が出現し、運悪く丁度出てきたルークに降り注いだ。
それよりももしかしなくても、今のは私がやったスプラッシュ、なのだろうか?
それにしては随分と水の量が少なく、水をぶっ掛けただけみたいだ。

押し流されるわけでも叩きつけられるわけでもなく、たらい一杯くらいの水を掛ける技、スプラッシュ。

いや、違うだろ。と心の中で突っ込み、私はルーク達に駆け寄った。

「へっくしゅ、なんだよ、今の水」

「さあ、なんでしょうねぇ?」

髪から滴る水をぶるぶると振り払いながら、ルークが口をへの字にしている。
ジェイドが意味ありげに此方を見てきたので私は素早く顔を逸らし明後日の方向を見ておいた。

私のスプラッシュについてはここまでにして、ルーク達が戻ってきた、という事はユリア式封咒が全て解けたという事だ。
先程まで光っていた三つの譜陣が消えている。
この状態でティアがパッセージリングに近づけば、操作が出来るはずだ。

瘴気を吸収してしまうけれども。
しかしこれは私にはどうしようもないし、どうすればいいのかも分からない。
私に出来るなら私が変わってあげたいけれど、出来ないのだから仕方ない。

「動きませんわね……」

これでも駄目なのかしら、とナタリアが首をかしげている。
とりあえず私はパッセージリングを操作するための譜石に近づいてみた。

(やっぱり、反応するわけないか――)

「ジェイド!ちょっとその譜石に近づいてくださる?」

「ぶひっ!?(はいっ!?)」

え、ここジェイドだっけ!?と私は目を丸くして振り返った。
ナタリアの青い目とぱちりと合う。

「ほら、貴方ですわ。ブウサギの方のジェイドです」

呼ばれたのは私だったようだ。同じ名前だとかなり分かり辛い。
小さく頷き、私は譜石に近づいた。

譜石が反応し、ぱかりと開く。

(……っ!!?)

突然身体の中に何かが入り込む感じに吐き気を催す。
それが瘴気に穢された第七音素なのだと気付くのに時間はそう要らなかった。
背後にいるティアを盗み見たが、体調が悪くなった様子はない。
何故、パッセージリングが私に反応したのかは分からないが、ティアが無事なら安心だ。

しかし、瘴気のせいか、気分が悪い。

私はその場に腰を落とし、座り込み彼らがパッセージリングを操作するのをぼんやりと眺めていた。




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