魔界へ
アルビオールの小さな窓から外を覗き込んだ。
紫色の世界が広がっている。
――魔界だ。
何もない。ただ瘴気を含む泥の沼と轟く雷鳴。それ以外は何もない。
魔界、と名づけられるに相応しい場所だった。
ルーク達とマクガヴァン元帥はコクピット側にいるためここにはいない。
先程から誰も何にも喋らない。
無言の空気がただ痛かった。
救助された人達のすすり泣く声だけが空気を揺らしていた。
アルビオールはユリアシティに着陸し、救助されたセントビナーの人達はユリアシティに保護される事になった。
テオドーロ、という名のおじいさんと話し合いをするため会議室へ向かう。
とことこと歩きながら空を見上げる。紫色の光りのない空。
レムの光がないせいか、ユリアシティは薄暗い。ここにいるだけで気分が滅入りそうだ。
ぶひぃ……と小さく息を吐き出していると、背中に軽い衝撃が走った。
くるりと首を回して背中を見るとミュウがちょこんと座っている。
「どうしたんですの?」
「ぶひ、ぶひぶぶひぃ(ここ、暗いなぁって)」
「ジェイドさんは暗いところ、苦手ですの?」
「ぶぶひぃぶひぃぶひ……(苦手って訳じゃないけど……)」
ちょっと、嫌いかな。と私はまた空を見上げた。
時々光るのは雷だ。
会議室に入ろうと思って、足を速めた瞬間だった。
「はい、貴方は邪魔ですので、入らないでください」
急に目の前に現れた二本の足に鼻先をぶつけてしまった。
恨めしげに見上げると、にっこりと笑うジェイドの顔。
いつも邪魔邪魔って!邪魔者扱いしてぇえええ!!!
心の中で怒りを爆発させつつも、そんな事を言えばインディグネイションかミスティックケージを貰う羽目になりそうだ。
渋々、私は首を縦に振り、さっさと踵を返した。
物分りがいいですね、という声が背後で聞こえた。
今日は独りで待ちぼうけではない。
背中にミュウがいる。
『ねえ、ミュウ譜術の使い方ってわかる?』
「はいですの!譜術は音素を集めるとできるですの!」
『音素ってどうやって集めるの?』
「ん〜……よく分からないですの」
細かく聞きすぎたらしい。ミュウは困った顔をしてしまった。
慌てて取り繕い、私は他の話題を投げかける。
『ミュウはルークが好き?』
「はいですの!ミュウはご主人様の事大好きですの!」
ぴょんと飛びあがりながら満面の笑顔でミュウが答えた。
本当に大好きなんだなと私は表情を緩め、くすりと微笑んだ。
……ブウサギだから情けない顔になっただけだろうけれども。
そんな話をしているとどうやら話し合いの終わったルーク達が出てきた。
恐らく次の行き先はシュレーの丘だったはずだ。
そこでパッセージリングを操作、するんだったかな?少し記憶が曖昧だ。
再びアルビオールに乗り、私達はシュレーの丘に向かった。
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