- ナノ -

アルビオール




シェリダンの石畳を踏みしめながら、私は街のいたるところにある音機関を見上げた。
音機関好きのガイはシェリダンに入るなり黄色い声を上げていた。
そんなガイをアニスやナタリアは半目にして見ていたけれども。
趣味のある男はいいと思うのだけれど、行き過ぎは逆効果らしい。

それはさて置いて、ルーク達は今メジオラ高原へ墜落したアルビオールを回収しに行っている。
メジオラ高原は魔物の巣窟のため私がいては邪魔だとジェイドがシェリダンに置き去りにしたのだ。
私も魔物の餌になるのはごめんだったため、大人しくシェリダンでお留守番と言うわけだ。

セントビナーといい、邪魔者扱いされている気がしないでもない。

実際、邪魔なのだろう。
何にも出来ない割には、幅をとる。

グランコクマを飛び出したというのに、何にも出来ない自分に嫌気が差す。
唯一の心の潤いはミュウだけだった。
ぶひぶひと喋ってもミュウにはきちんと私の言葉が通じる。
意思の疎通ができるだけでもありがたいし、ミュウの可愛らしい声は聞いているだけで癒された。

そういえば、と思い出す。
先程セントビナーでジェイドがスプラッシュを使っていた。
譜術を目の前で見たのはあれが初めてだった。
走っていたときだったのでよく見れなかった。思えばもっとちゃんと見ておけば良かった。

ちょっぴり後悔しながら、私ははたと動かしていた足を止めた。

(ブウサギでも譜術は使えるのだろうか……)

譜術が使えたら少しでも戦闘の役に立てる。
ジェイドに邪魔者扱いされずにすむ。

確か譜術の使い方は……フォンスロットから空気中の音素を体内に吸収させてから、譜を唱えて発動、だったような気がする。

邪魔にならぬよう道の端により、私は目を閉じて集中する。
とりあえずジェイドの使っていたスプラッシュを真似てみようと思う。



………………。



…………。



……フォンスロット、て何処にあるんですか……。
てか、音素も感じられません。

譜は分かるのに音素が分かりません。
何が音素ですか、どれですか、教えてください、偉い人。

「あ!いたいた。おーい、ジェイド!こっちだぞー!」

音素を感じようと躍起になっていると、背後から聞きなれた声が聞こえてきた。
振り返るとガイが此方に向けて手を振っている。
その背後には他の面子が揃っている。どうやらギンジを救出できたらしい。

私が駆けつけると、ガイがよしよしと頭を撫でてきた。

よし行くぞ、とルークが歩き出す。

アルビオールを貰い受けるため、船渠へ向かう。その途中だった。

「お前達か!マルクト船籍の陸艦で海を渡ってきた非常識な奴らは!」

キムラスカの兵士が二人、鎧を軋ませながらかけて来た。
彼らはジェイドの服装を見て更に声を荒げた。

「む、お前はマルクト軍人だな!?」

私はいち早く駆けて、船渠の扉に飛びついた。
それに気付いたガイがルーク達に声をかける。

「とりあえずここは逃げるぞ!」

全員が船渠に入ったのを確認すると私はその大きな図体を扉の前にどしりと置いた。
どすんどすんとキムラスカ兵が扉を叩く音がする。

私達が慌しく入ってきたのを見てイエモンが手を上げた。

「おお!帰ってきおった!今アストンが浮遊機関を取り付けとるぞ!」

――ダンダン

「ぶ、ひ!?(わ、わ!?)」

先程よりもかなり強く叩かれた。
下手をすれば扉が壊れてしまいそうだ。

その音を聞いたタマラが何の騒ぎだと眉を顰めながら尋ねてきた。

「キムラスカの兵士に見つかってしまいました」

ジェイドが肩を竦めた。

「もう準備は完璧だぞ!さあ、行け!」

浮遊機関の取り付け作業をしていたアストンが昇降機から出てきた。
アストンと入れ替わるようにルーク達が飛び乗り、扉の前にいるガイと私に合図する。
その合図で弾ける様に走りだす。

キムラスカ兵を引き受けたイエモン達が心配だったが彼らは此処では死なない。
だから、大丈夫。

預言よりも確実なその未来を知っている私は彼らの後ろ姿を眺めきゅうっと口を噤んだ。



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