- ナノ -

グランコクマの外




セントビナーの花壇をぼんやりと見つめた。
先程から小さな地震が頻繁に起きている。
地盤沈下が起こっているらしいから、セントビナーが崩落するのも時間の問題なんだろう。

ルーク達は今、セントビナーのマルクト軍基地でマクガヴァン将軍達に話をしている。
中に入りたかったが、ジェイドに邪魔だと一蹴されてしまい、こんなところで待ちぼうけというわけだ。

(美味しい……)

商人が恵んでくれたエンゲーブ産のりんごをむさぼりながら私はぼけっと街の中心に立つソイルの木を見上げた。
天に届きそうなほどの大木も崩落でなくなってしまうのだろう。
そう考えると少し胸が痛むが私に崩落を止めれるほどの力はない。

そういえば、ガイはゲームどおりかなりのいい人だった。
突然パーティに入ってきたブウサギの私を否定することなく受け入れ、よしよしと撫でてくれた。
ついでに言うとかなりのハンサムだ。元の世界であればモテてモテて仕方ないだろう。
本当、女性恐怖症という事が彼の足を引っ張っているんだなと感じた。

「急ぎ、民に伝えるんじゃ!」

「!」

マルクト軍基地から飛び出してきたのは、伸びに伸びた髭をいくつかに纏めた老人――マクガヴァン元帥だ。
その後を追いかけるように出てきたのはマクガヴァン将軍にルーク達。
どうやら話は纏まったようだ。

さあこれからセントビナーの人達を避難させるんだなと思った私は重い腰を持ち上げた。
私も出来ることをしなければ。

「ぶひ、ぶひ!(さあ、乗って!)」

座り込んでいる子供の傍で身を低くして、背中に乗るように促した。
子供は恐る恐る私の背中に跨った。
しっかり私の身体を掴んだのを確認し、なるべく揺れが少ないように街の城門へと向かう。

街の外に用意された馬車の傍で子供を下ろし、また街の中へ走る。
子供くらいならブウサギな私にも運べる。

必死に四肢を動かし、街の中を走り回る。

大体の人は歩ける大人ばかりなので、私は一旦城門に戻るにした。

どしんだか、ずどんだか、激しい音が聞こえてくる。
城門のところで見えた真ん丸いずんぐりとしたロボットを見て私はあ、と声を上げた。(正確にはぶ、だったけれども)
ディストだ。そういえばディストが邪魔してくるんだった。
本当こんな忙しいときに邪魔してくるなんてありえない。

ぎ、と睨み私は走る速度を上げた。
そしてロボットの細い足に向けて全速力で突っ込んだ。

がつん、

ロボットの足が"く"の字に曲がり、ごろんごろんと前転のように転がった。
体勢を崩したロボットを畳み掛けるようにジェイドのスプラッシュが決まる。

何処かの回線がショートしたのだろう、ぷすぷすと煙を上げはじめる。

「ジェイド、こっちへ来なさい!」

ジェイドが私を呼んだ。
一瞬自分が呼ばれているのか分からず、躊躇したがばっとルーク達のほうへ駆け出した。

どん、と目の前でロボットが爆発し立派な城門ががらがらと音を立てて崩れた。
それからセントビナーの地盤沈下が始まったのはすぐだった。


12/31
prev next
temlate by crocus