- ナノ -

ルーク達と話してみる




本当にこの金の輪で話せるのか、半信半疑だった。
もしも喋れなかったらどうしよう。すこし、不安だった。

息を吸い込み、口を開き、音を出す。
ぶひぶひでなければ、いい。そんな期待を持ちながら。

「……ぁ〜、あ〜……!しゃ、喋れたっ!」

マイクテストのように間延びした"あ"を何度か繰り返し、私はしっかりと言の葉を喋っている事に感動した。
それはもう、涙が出そうなくらいに。
喋れるという事がこんなにも嬉しいと思える日が来るとは、人生分からないものだ。

「で、何だよ」

「!」

そうだ、うっかり彼らを忘れていた。
ルーク達は忙しいのだからこんなところで足を止めているわけにもいかない。
由希はごくりと生唾を飲み込み、震える声を抑えながら口を開く。

「わ、わ、わたしっ!私もジェイドについていきたい!!」

「は?」

――何言ってんだ私。数秒前の自分を殴りたくなった。
ぽかんとルークが口を開けて私を凝視している。

なんでジェイドに着いて行くんだよ。
いやいやそもそもジェイド達に何を言おうと思ってたっけ?

口元を引きつらせ、情けない顔でジェイド達を見回した。

「はっきり言いましょう。無理です」

「あ、え、で、でも!私!みら――」

未来を変えたい。そういいかけて慌てて口を噤んだ。
一ブウサギが何を言っているんだ。

冷徹なジェイドの視線に私は萎縮する。

ついていけば何か出来るかもしれない。
でも、何も出来ないかもしれない。だって、ブウサギだから。
元人間だけど、やっぱり私はブウサギでしかない。

このソーサラーリングがなければ人に物をいう事も出来ないただのブウサギ。

ぽとりと雫が地面を濡らした。

「お、おい……ジェイド、泣いてるぞ!」

「私は正論を言ったまでですが……面倒ですね」

やれやれとジェイドが頭を振るのが視界の端で見えた。
ルークの言葉で漸く私は自分が泣いているんだと気付いた。
だんだんと視界が潤んでくる。

ぽた、ぽた。

地面をぬらす雫は数を増やす。

「わた、わたし、わたしも、い、行きたい……」

世界を見たいよ。未来を変えたい。
ルークがアッシュが、シンクが皆が死ぬ運命を変えたいよ。

ぶるぶると震えながら、私は涙声で言う。

あまりの必死さにジェイドも少し驚いたような顔をしている。

ふぅ――

ため息をついたのは誰だったのか。多分ジェイドだ。

「なあ……連れてってやろうぜ。いいだろ?」

「……まあ私は構いませんよ。ただし、うっかり第五音素が飛んで丸焼きになっても私は責任を負いませんがね」

丸焼き、という単語に私は身震いする。
いやいやジェイド、貴方うっかりとかないでしょ、わざとしかないでしょ。

とりあえず私はどうやらついていく許可をもらえたらしい。

その事実に私はほうっと息を吐き出したのだった。



11/31
prev next
temlate by crocus