- ナノ -

待ってください、マジで。




重い身体を必死に動かして先を進むルーク達についていく。
どうしても、どうしても私は諦めれなかった。
文字を読むのは諦めたけれども、これだけはどうしても。

宮殿の外へ出ても、私は彼らの後を付いていく。

てくてく――


――とてとて



てくてく――



――とてとて


「だぁああああ!!お前いつまでついて来るんだよ!」

ついに耐え切れなくなったのか、ぐるりと振り返ってルークが叫んだ。
私は切実な思いを込めてルークを見上げた。
正確に言うと、ルークに抱かれたミュウを、だ。

「どうしたのかしら?」

ティアが私の傍に屈み込み、そっと手を差し出した。
私はその手をじっと見つめてから、ティアを見上げた。

(ソーサラーリング貸してください)

って、ティアに言ってどうする。ミュウだ、ミュウ。

「ほら陛下の自室に戻りなさい」

ジェイドが爪先で私のお尻を軽く蹴った。酷い。
それでも私は頑なにその場を動かない。
動けない。尻を蹴られたって何したって、ソーサラーリング貸してくれるまで動きたくない。

「何ですかその目は」

ジェイドが眼鏡を光りで反射させながら私を見下ろす。
とてもとても、怖いです。僅かに気温が下がったような気がして私はぶるりと震えた。

「ぶひぶひぶひー!!(ソーサラーリングー!!)」

「え、と、これが欲しいんですの?」

ルークの腕の中でぴょこりとミュウが顔を出した。
私の切実な叫びがミュウにも届いたようだ。

こくこく、と何度も首を上下に動かした。

「何か言いたい事があるのでしょうか?」

ナタリアが不思議そうな顔をして私を見ている。
ミュウが下りて私の傍にくると、浮き輪のように腰に回していたソーサラーリングを私に差し出した。
きらりと光る金の輪を暫し見つめ、私はごくりと生唾を飲み込んだ。

そっと、その金の輪を右手で受け取り通した。


すうっと息を吸い込みそして、口を開いたのだった。



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