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眠れない夜は、長い。
地球が自転して太陽が彼方に有る限り、必ず朝は来るのだと知っている。そんなのは常識だ。俺が常識を持っていないはずがない。
…けれど、それは知っているけれど、窓から見える東の空が白んで、俺の部屋の中に光が入って、いつもの明るい、いつもの河川敷の風景が取り戻されていくのを、今どうしても想像することが出来ない。
そして、"もしも…"と考えてしまう。もし朝が来なかったら。誰もが眠りに着いたまま、目覚める事がなかったなら。自分だけこの真夜中の一瞬に囚われて、二度と時の動き出す事がなかったとしたら。
俺は、どうするだろうか。
「はやまるなああああ!!」
俺の思考を邪魔する馬鹿声がひとつ。いつもの黄色いかぶりものも忘れてこっちに走ってくる。何してんだあいつ。あっ、こけた。
「なぁ、おま…」
「いいから!いいから俺が行くまでお前はそこから一歩も動くんじゃねぇぞいいかわかったな!!」
は?本当に頭の痛くなる奴だな…勘違いの内容は最初の一声で大体想像出来たけれど、こっちの話を聞いてもらえない以上、訂正もしてやれない。
夜風にでもあたりたい気分だったから、ドアの外のスペースに腰掛けて、ただ真っ暗な川を眺めていただけ、だったのに。
大体、ここから飛び降り自殺なんて出来るはずないだろ。前にお前と飛び降りさせられたこともあったじゃないか。ったく、この脳みそウレタン野郎が。せいぜい橋脚は気をつけて登れよ。
ふと、いつの間にか自分が笑っている事に気が付いた。なんて騒々しい、昼間と変わらない奴なんだろう。
「ばっかやろー…お前、俺が見付けてなかったらどうするつもりだったんだ、こんのクソネクタイが!」
息を切らせて登ってきたと思ったら、いきなりそれかよ。何から訂正しようかと考えている間に、星は俺を思い切り罵倒しながら、強く抱きしめてきた。熱い息と、鼓動を耳元で感じる。
「うわっ何すんだ離れ…」
「嫌だね。離れたらお前何するかわかんねぇから絶対離れねぇ」
…そうだな。もし、明けない夜が来てしまったら、多分、俺もこうして昼間みたいに過ごしたらいいんだ。そうしているうちに皆起き出して、きっと時間もつられて動き出す。
「この馬鹿リクルート」
「馬鹿はお前だアホ天体」
そうして朝がやってくるんだ。ほら丁度、今みたいに。
遠くの空の色が変化して、それを写す川の水面が眩しく輝きはじめる。さっきまで瞬いていた空の星は光に溶けて、世界は再び呼吸を始める。
そんな当たり前の事に、俺はいつの間にか涙を流していた。そこでやっと自分が半分本気だったことに気が付く俺も、もしかするとコイツと同じくらい、やっぱり馬鹿なのかもしれない。
*必死な星可愛い*´ω`*