イタチ連載 | ナノ

 prologue



***

──はっ、はっ、


そこは限りなく無機質な場所だった。白黒(モノクロ)で、色彩を無くしたかのように存在するそこは、ヒトの住む世界とはおよそ掛け離れていると云ってもいいかもしれない。
そんな空間をひたすら走り抜ける一人の少女がいた。この閉ざされた場所から脱出するための出口を探しているのか、はたまた別の理由か。


──はっ、はぁ…


暫くすると、彼女の視界に一筋の光が射した。その光へと足は進んでいく。そして、溢れんばかりのまばゆさに思わず目を閉じると、一転して景色が変わる。次に目を開けた時、彼女は目前の光景にたじろいだ。


「どうして…」

「奴だけでは、荷が重過ぎたのだ」


誰にともなく呟いた言葉に、聞き慣れない低い声が応えた。声の主は橙色の面をしており、その素顔を拝むことは叶わない。
彼女はそちらを見ることなく、只、凄まじい音と同時に崩壊していく街と、その喧騒の最中(さなか)にいる青年を見つめ、悲しみと苦悶に満ちた表情を浮かべている。


「そんな…あんまりだよ。こんなのってないよ…!」

「コハネ」


非力な自分ではどうすることも出来ない現実に、悲痛の声を上げる少女──コハネは、今にも崩折れてしまいそうだった。何が彼女をそこまで追い詰めたのかは、現段階において、我々の知るところではない。そんなコハネの心情を察したかのように、面をした人物は、少女へ言葉を紡ぐ。


「運命を変えたいか?」

「え…」

「この世界の何もかも全て、お前が覆してしまえばいい」


──それを可能にする力が、お前にはある──
彼の口から発せられた言葉に、コハネは漸く男の方へと顔を向けた。戸惑いの色を浮かべる瞳が僅かに揺らいでいる。


「本当…に…?」

「!」

「ああ…。だから」

「───!」


半信半疑に問うコハネに、未だ戦闘を続けている青年が振り返った。身体のあちこちに傷を負ったその姿は、もはや限界が近いようにも見える。彼は気力の許す限りの声で、此方へと叫んだ。しかし、それは届かなかったのか、彼女が青年の方を見ることはない。
面の男は、そんな青年など気にも留めず、突に纏う空気を変え、コハネに希望を見出だすように、告げた。




「僕と契約して、暁に入ってください!」



プロローグ...END



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