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授業の終わりを告げる鐘が鳴り、オレは購買へ向かった。時間が無かったとはいえ、朝食抜きはさすがに堪える。しかもサスケ手製とあれば尚更だ。ああ、日直でなければ食べる時間は十分あったというのに。


「あ、あの、うちは先輩!」

「?、はい」


ぼんやりと今朝のことを悔やんでいると、かわいらしい声に呼び止められる。振り返れば、そこには一人の女生徒が緊張した面持ちで立っていた。リボンの色からして後輩のようだ。


「えっと…こ、これ、受け取ってくれますか…?」


彼女が差し出したのは、薄いピンクの袋だった。この時期にこんな贈り物といえば、中身は大方察しがつく。朝には玄関先で渡され、教室に行けば机の上に小さな山ができている。毎年のことなので驚きこそしなくなったが、反面、処理に悩むこともしばしばであった。


「ああ、ありがとう」


礼を言って受け取ると、女生徒は小さく頭を下げて逃げるように去っていった。その方向から視線を手にある袋に落とし、一旦置いて来ようかと踵を返そうとしたその時。人気のない旧校舎へ続く廊下から、人の気配を感じ、その相手に向けて言葉を投げる。


「…覗き見とは、悪趣味ですね」

「……気付いていたか」


壁の陰から現れた男は、威圧感を漂わせながらオレに歩み寄る。すると、明るい陽射しの入り込む廊下が、さっと影に包まれたような錯覚に陥った。


「こんな時間に何を?」

「…気になるか?」

「………いえ、そういう訳では」

「フッ、まあいい…時にイタチ、お前もなかなか隅におけんな」


彼──マダラは言いながら、オレの手にある袋を見て、どこか面白がっている風に喉の奥で笑った。こっちからしてみれば、あまり良くないタイミングで出会したので、すぐにでもこの場を立ち去りたいのだ。しかも、彼の存在は表沙汰になっていない。そんな得体のしれない輩と校内で密会しているなどと誰かに目撃されでもすれば、自分にもあらぬ疑いをかけられてしまう。


「今日は、そういう日ですから。別に問題はないでしょう」

「それは暗に肯定しているように聞こえるぞ」

「それより…用件は何ですか。まさか、オレをからかうために現れた訳ではないですよね」


話を切り上げようと、会話の矛先を無理矢理変えた。だが、彼は相変わらず余裕な姿勢で、懐から"何か"を取り出した。


「用という程でもないが…まあ、お前とはそれなりに付き合いがあるからな。受け取れ」


彼が差し出したのは小さな黒い箱だった。流れで受け取ってしまったが、何故自分に、と頭の中で疑問符を浮かべる。これを渡すだけなら、別に今でなくても良い筈だ。
彼の意図を知るため、努めて事務的に問うた。


「…どういう風の吹き回しですか」

「なに、日頃の礼だ。…それとも」


此方の方がいいか?と、肩に手を置かれたかと思えば、グッと引き寄せられ、彼との距離は急速に近付く。その一連の動作は、まるで計画されていたかの如く、寸分の無駄もない。こうした側面を知れば知る程、余計にこの男のことがわからなくなる。一体、何がしたいのだろうか。


「……悪ふざけはやめてください」

「オレが冗談でこんな真似をすると思うか?」

「いい加減に…」


──ガタッ!


一向に解放する様子のないマダラに痺れを切らし、やや語気を強めた時。新校舎側の廊下から物音がした。反射的にそちらを向き、そこにいたのは──


「…サスケ」


一番知られたくなかった、我が弟であった。




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