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───…ケ、…サスケ


「……っ」


自分を呼ぶ声に、サスケはテーブルからはっと顔を上げた。どうやら、うたた寝をしていたらしい。横を見れば、半ば呆れ顔のイタチが急須を持ち、お茶を入れるところだった。


「夏だからって、こんな場所で寝てると風邪を引くぞ」

「……兄さん」

「ん?」

「……いや、…何でもない」


コト、と静かに急須を置き、淹れたお茶を飲むイタチは、やはりあの世界の彼と似ている。というより、もはや本人ではないかと思うくらいそっくりだ。だが、別人だと己に言い聞かせるほかなかったのは、自分の住む世界が、あの世界と余りにもかけ離れているからだった。


「…また、あの夢を見たのか?」

「…………ああ」

「こうも続くとなると…もしかしたら、その夢はお前に、何かを伝えようとしているのかもしれないな」


イタチの返答に、俯けていた目線を上げると、穏やかな表情の兄が此方を見ていて、二人の視線が絡み合う。そう、まるで、あの夢の終わりのように。


「夢の中の世界は、戦争をしていて、常に危険と隣り合わせ。一方、オレ達の住む世界は、それなりに平和で、安全も完璧とはいかないが保障されている」

「…こっちの世界では、悔いのないように生きろってことか?」

「それもあるが…。争いは、感情を蝕む。今まで抱いてきた思いが、他者の介入によって揺らぎ、考え方そのものを変えてしまうこともある」


いつになく饒舌なイタチの言葉を、サスケは口を挟むのも忘れて聞いていた。遠くで小煩く鳴く蝉の声すら気にならないほど、兄の話に耳を傾ける。


「もし、そうなったら…どうすればいい?」

「一人で何もかも背負い込めば、大切なものを見失う…それが孤独を作り出し、先にあるのは…闇だけだ」

「……」

「…お前は一人じゃない。もっと仲間を、友を頼れ。そうすれば、一人の時には見つからなかった答えが、きっと見つけられる……そういうことを、伝えたかったんじゃないか。その夢は」


話終えると、一息吐いてイタチは腰を上げる。空になったのか、自分の湯呑みと急須を持ち、台所の方へと行ってしまった。


(…友を頼れ、か)


確かに、夢の世界にいたもう一人の自分らしき人物は、どこと無く不器用で、人と深く関わるのを避けているとでも言うのか、自ら孤独になろうとしているように見えた。


「サスケ、」

「……ん、何」

「お客だ」


いつの間にかひょっこり現れたイタチが、一度玄関に目を向け、サスケを呼ぶ。誰か、というのは大体予想出来たが、敢えて素知らぬふりを装い、玄関へ足を運ぶと。


「サスケ!」

「サスケ君!」


そこにいたのは、同じクラスである金髪の少年──ナルトと、桃色の髪の少女──サクラ。二人とは小学校時代からの付き合いで、いわば腐れ縁とも呼べる間柄だ。
揃って何か用かと尋ねれば、顔を見合わせた後、此方へ満面の笑顔を向けて、言った。


「「サスケ(君)、誕生日おめでとう(だってばよ)!」」




自分の生まれた日を祝ってもらえることに、この上ない幸せを感じたのは、彼らが、自分の中で大切な存在であると思えるから──。

他の同級生も呼んでパーティーをしようと言い出すナルトとサクラを横目に、ふと、先程の会話を思い出して、サスケは小さく笑う。そして、心の中で呟いた。


──オレは、この世界で大切な人達と共に生きていく。気付かせてくれてありがとう。………もう一つの世界のオレ。




クラスメイトと雑談を交わす弟の姿を、近くの柱に凭ていたイタチは、慈愛に満ちた眼差しで見つめていた。これでやっと、伝えることが出来る。本当の気持ちを。


「お前がこれからどうなろうと───おれは、お前を愛している」




生まれてきてくれて、ありがとう。






Happy Birthday!!
U.Sasuke

12.7.24



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