※not夢
ある晴れた日の昼下がり。今日は特に任務もなく、予定も入っていなかったから、久々に演習場で修業に打ち込んでいた。ここ最近、AやSランクの任務が続き、修業に充てる時間が限られていた分、普段より集中出来たように思う。
目前の的には、先程投げた手裏剣が全て綺麗に中心に刺さっている。それを見つめ、小さく息をつく。と、背後から見知った気配が近付いてくるのを感じた。
「サスケ、」
此処にいたのか。そう言って現れたのは案の定、イタチだった。振り向かずに何か用かと問えば、「用がないと来ては駄目なのか」と返された。…会話が進まねぇ。
「今日は任務じゃなかったのか」
「ああ…ついさっき終えてきた」
「…」
「帰り際に此処の前を通ったら、お前が見えたから立ち寄ったんだ」
オレの言いたいことを察したのか、そう答えるイタチを首を少し後ろに回して見遣れば、暗部の装束を着たままで、確かに任務帰りな出で立ちだった。
「…やけに気合いが入っているな」
視線を正面に戻し、的に投げ放った手裏剣を回収しようと歩き出した時。静かに呟くイタチの声が聞こえ、足を止める。
「……こうでもしなきゃ、アンタに追いつけないだろ」
知らず知らずの内に拳を握りしめていた。アンタは暗部でオレは中忍。そして5年という埋めようのない年月は、どう足掻いても力の差を生み出してしまう。それが悔しくもあり、疎ましくもあった。何故オレがこんな思いをしなければならないのか、と。
「…すまない」
「別に、」
謝ってほしい訳じゃない。誰が悪いとか、そういうことを責めたい訳でもない。ただ…言葉にすると、心の内とは正反対のことを言ってしまうから。全く、自分はつくづく捻くれている。
「謝罪するくらいなら…、修業相手にでもなってくれよ。…兄さん」
「!」
どんなに鍛練を積んだところで、オレはイタチにはなれない。わかってるんだ。だけど、それでも。
「フッ…そうだな。久しぶりに、手合わせするか」
いつか、その背に追いつけるようにと。そんな思いを抱きながら再び歩き出せば、すうっと柔らかな風が吹き抜けた。
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おまけ
夕刻、修業を終えた帰り道にて。
「そういや、任務帰りだったのに悪かったな…付き合わせて」
「なに…かわいい弟のためなら喜んで相手になるさ」
「っ、そうかよ」
穏やかな笑みで返答した兄に、不覚にも心拍が乱れたのは、秘密にしておく。
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初うちは兄弟文。なんでかシリアス気味になってしまった…。因みに二人は里抜けしてない平和設定。