愛だの恋だの、そんな感情が煩わしいと思うようになったのは何時からだろう。幼い頃は、お伽話に出てくるお姫様みたいな恋がしたいとか、運命の人に出逢いたいとか、そんな空想を抱いては夢見心地に浸ったものだ。けれど現実は、物語のヒロインみたいに上手くは事が運ばない。
「…あの、」
「……」
「へ、返事はすぐじゃなくて良いので」
昼休み、校舎の屋上にて。フェンスに凭(もたれ)る男と、彼に想いを伝える女。所謂、告白というやつである。これがよくあるオハナシの中なら、二人は両想いで結ばれてハッピーエンド、になるのかもしれない。しかし先に書いた通り、そう都合よくいく恋なんてのは、ほんの一握りであって。故に、現実世界のヒロインたちは思い悩み、試行錯誤しながら、かの人との幸せな物語を書き出さんとしているのだ。
「では、私はこれで…」
「……」
そう告げると、女は小走りに屋上を去って行った。残された男は、相変わらずフェンスに背中を預けたままどこか遠くを見ていたが、不意に給水塔の上に視線を向ける。
「…で、アンタはそんなところで何やってんでィ」
「あ、バレてた?」
男の発した言葉が自分に向けてのものだとわかり、私は給水塔の影から出て梯子を降り、男、もとい沖田総悟の元へと歩く。
「人の告白を盗み聞きたァ、よっぽど暇なんだな」
「別に、聞きたくて聞いたわけじゃないけど」
「あっそ。んじゃ俺はこれで」
話すだけ話すと彼は屋上の入口であるドアへと踵を返そうとする。そんな彼の腕を、私は咄嗟に掴んで引き寄せた。瞬間、近づく二人の距離。
「何でィ」
「プレゼント、まだあげてなかったから」
"今日、誕生日でしょう?"と言えば、彼の怠そうな瞳が少し見開いた。が、それも一瞬で「何かくれるのか」と、意地の悪い笑みで問いかけた。
「まあ、期待はしてねーけど」
「総悟」
"好き、だよ"
愛だの恋だの、そんな感情は煩わしいと思っていた。だけどたまには、昔に夢見た空想を実行させてみてもいいかもしれない。
お伽話のようには
いかないけれど(誕生日、おめでと)
(…祝うのか告白するのかどっちかにしなせェ)
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無理矢理誕生日ネタをぶち込んだらいろいろと残念なことに。
とにかく、おめでとうでした!
11.07.08