「ひゅーうーがっ」

豪快にがぶがぶ水道水を飲む彼に後ろからタックルしたら、これまた豪快にむせこんだ。

「ゲホッ…青木おまえ…!」
「ほらっ、差し入れ!うちの子たちは頑張ってる?」

どやされる前にさっとビニール袋を日向の面前に持ち上げる。部活用のポカリとかサポーターとか、役に立つものばっかり持ってきてあげたんだから、小言はやめてよね!

「サンキュ。で?うちの子ってどれのことだよ。ハルキか?ミノルか?マネージャーか?」
「黒子くんと火神だけど」
「あいつらお前のじゃなくね!?」


ばっか、可愛い後輩は全部あたしのよ!と力説してやったら、ヘイヘイとかるーくのされてしまった。何がヘイヘイだお前捻るぞ。ポカリ返せ。
体育館に戻る日向の後ろについて、アリーナを覗いたら休憩時間なのにハルキと火神がボールを取り合ってた。ばかだな、相変わらずあいつらは…
近くでそれを見てる黒子とミノルの近くに腰を下ろしたら、黒子が先にあたしに気付いた。

「あれ、みのりさん」
「おっ、みのり?何してるの、こんなとこで」
「べっつにい。ヒマだったから来た。」
「おまえ、寂しくなったな」
「うっせ!」
「だからみのりもマネやればって言ったのに〜」
「いまさら入れるわけないじゃん。いーの、あたしは放課後そこらへんで遊んでる方が性にあってるから!」

そうだ、さいきん黄瀬クンとも仲良くしてるんだよ!と一緒に撮ったプリクラの写メを見せたら、二人とも一気に顔がゆがんだ(まあ、黒子くんのは微々たる変化なんだけど)。

「え、なに、嫌われてんの?スーパーモデルくん」
「別に嫌いじゃねえけどさあ…」
「ちょっと複雑です」
「そうそう」

よくわかんないけど、じゃあ二人の話で盛り上がったことは内緒にしておこう。なぜか黄瀬くんはミノルと黒子にお熱だったからつい話し込んじゃったんだよね。

「ところではるかちゃんは?」
「たぶん、監督とミーティング中」
「もうすぐ戻ってくると思いますよ」

ふうん。
アリーナの高い天井を見上げたらライトの隙間にバスケットボールが何個か挟まっててなんか笑えた。
こいつらの試合は何度か見に来たことがある。みんなから話を聞くたびにいつの間にかルールを覚えてしまったから、試合内容の理解には困らなかった(しかもなぜかいつも隣には自称解説役のさつきがいたし)けど、ハルキとミノルが拳を突き合わせたり、はるかが心配そうにボードを握りしめるその瞬間、あたしはどうしても彼らが分からなくなって寂しくなった。

マネやればって言ったのに。

いまさらあたしの入る幕なんてないとおもった。
自分たちでバスケ部つくって頑張るハルキや日向の間に今さら入れないと思った。
ミノルやはるかが新しく入部して、キセキの世代と渡り合えるとまで言われた火神も入ってその気持ちはもっと大きくなった。
寂しいなんて言っちゃいけないけど、長い間ハルキやミノルとはるかと一緒にいて、初めて、そしてとうとうミゾが出来たと思った。確信した。


「みのりさん、はるかさん帰って来ましたよ」
「ほんとだ」

はるかに手を振ったら、あたしに気付いて少し驚いたけど、すぐに笑顔で大きく手を振りかえしてくれた。
あたしが感じたミゾは、きっと気のせいなんかじゃない。
でも、それが絶望的になるまでは、知らないふりしても許される気がする。


「何かんがえてるかわかんないけど、あんま心配しないんだよ」

じゃ、いくか。
リコの声でミノルと黒子が立ち上がる。
こっちに背中を向けたミノルに大きく頷く。やっぱあんたに隠し事はムリだわ。


「頑張れよ、少年たち!」



みんなの熱で熱くなった体育館を出るのは名残惜しいけど、さっきよりあたしの足取りは軽い。
今日は黄瀬クンとさつきと、あと二人があたしに紹介したいらしい人に会う。なんでもあたしはそいつと同じ色だからきっと仲良くなれるらしい。なんだそりゃ。
一生懸命ボールを追いかけるみんなとは違うけど、あたしにもきっとそれと同じものがある。
焦る必要なんてない。

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