転校生が来るらしいという類のものは、どこから出て来るのかわからないが噂が回るのが早い。おれももうとっくに友達から転校生の話を聞いていたから、会長からその話が出ても驚きはなかった。
ただ、問題だったのは転校生そのものだった。



「暴力事件!?」
「それ以外は兄妹ともまったく問題はないんだ。成績も普通、妹は入学当初からいろんな場面で学校に貢献してる」
「クラスはどうするんですか?とてもじゃないですが、東がおれのクラスに来て馴染めるとは…」
「まあ、どっちにしろ太田のいる特別クラスに入るほどの学力は兄の方にはないよ。」



兄の方には、か。
それでも不安そうにする武先輩に優しく会長が笑いかける。
中田会長は先生からの評判も良くて生徒からの人望も厚い。7月の頭には、事実上の三年引退となる生徒総会が控えていて、学校全体がなんとなく動揺しているようだった。
おれは、来期はどうするんだろう。
まだ副会長だった中田会長に憧れて生徒会に入った。その中田会長がいなくなったら?



「だから、兄の方は城紅寺のいるクラスで問題ないと思うんだ。それで妹の方なんだけど…」


中田会長と目があう。えっ、なに、他のこと考えてたのばれた?すんません、別に変なこと考えてたわけでは…


「青木、頼めるかな」
「…へ?」
「東はるかの世話係りとしていろいろ力になってやってほしいんだ。」

まじかよ。



***


「あなたが青木くん?わたしの世話係になるらしいね。よろしく」


東の服装は肩に揃えて切られたライトブラックの髪に、下品じゃなくちょうどいい長さのスカート、最近よく見るようになったブランドのニットベストと上品に揃えられていて、言葉もさっきちょろっと見た兄の方と比べてイントネーションは違うけどあんまり訛ってない。


「こちらこそよろしく。東さんは僕と同じA組だから、何か困ったことがあったら何でも言って」

前評判の多いひとだったからか、素直にうんうんとおれの話を聞く東を目の前になんとなく面食らった。
酷く我が強い女王様気取りのやつか、頭の固いようなひとなんだろうと思っていた。


「そうそう、生徒会入りのことなんだけど、今期の役員は今月いっぱいで任期を完了するんだよね。だから来期から正式な立候補を通した方が君にとっても都合がいいと思うんだ」
「ええ、そうなるんちゃうかなと思ってたわ。検討してくれてありがとうって他の役員さんにも伝えてくれる?無理言ってすみませんでしたって」

一緒に教室までの道のりを歩く。
ホームルームが始まったのかさっきより幾分か静かになった校舎に彼女とおれの分の靴音が大きく響いた。
とても初対面とは思えない。さっきから感じていた、変な違和感は、きっとこれだ。彼女とおれは初対面じゃないんだろう。あんまり言うと変に思われるかもしれないけど、そうに違いない。


「そういえば、東のお兄さんのクラスにおれの姉さんがいるんだ」
「そうなの。ふたりも仲良くなれたらええけど」


初夏独特のすっきりした風が横を通り過ぎた。別れの季節らしい春までの執行猶予が始まる。中田会長も、良くしてくれたサッカー部の3年キャプテンもみんな引退だ。


「青木くんは来期も生徒会に立候補するつもりなん?」


でもきっと同じ数だけの出会いがまたおれを支えてくれるんだろう。


「うん、そうだね。たぶん、きっとそうする。東も立候補するでしょ?」


来期の役員候補は人員不足だから、すっごく助かるんだ。
そういって笑ったら、東はこれから来る夏にふさわしい眩しい笑顔で微笑んだ。



「さて、ここがA組だよ。サルとか変態女とかサボテン好きとか変な奴ばっかだけど、東なら楽しめる。おれが保障するよ」
「何より青木くんもおるしね」



運命ってのは確かにあって、もし僕らがここで出会えなかったとしても、僕たちはどこかでこうやって一緒に歩くように出来ていたんだと思う。
そう思えるほどに、君が隣にいるのは不思議で、恋とか友情とかともまた違う気持ちがもうとっくにおれの中に巣食ってしまっている。










解説



ハルみのと違って、ほぼ初対面にも関わらずはるかちゃんはミノルの光になると思います。恵まれた?環境にいながらなんとなく理解者がいないと感じてたミノルと何でも受け入れる優しくて強いはるかは幼馴染じゃなくてもやっぱりうまくいくかも。
きっとこれからそんな関係にはるかの方が戸惑って、幼馴染バージョンとは違う感じで恋愛路線に脱線していくんだろうけど、まあ楽しいからしばらく転校生と保護者でもいいかも。
次の生徒会からハルトも立候補したり、だいぶ幼馴染Verと近くなるんではないのかな。知らんけど。
きっと続きはない。(二回目)
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -