「ハルキえらいっ!」
「だろ!!!」

驚くことがおこった。驚愕だ。…意味一緒か。

「んでさ〜、雨降ってきたけど家にオレしかいなかったからやべぇと思って洗濯いれたのよ!」
「へー」
「そしたらさ、そりゃあさ、洗濯もん濡れないじゃん!?そんでゲームの続きやってたらはるかがすごい勢いで帰って来てさあ、」
「へー」
「洗濯物は!?って言うわけ!だからオレ、あー濡れそうだったからいれといたって言うじゃん、だってホントのことだし!オレ洗濯入れたし!!!」
「へー」

いやあ、はるかがオレのこと褒める日が来るなんて!と大袈裟に顔を覆い泣き真似をするハルキを横目に、俺は全く面白くなかった。
褒められたぐらいで、俺なんてもう何回も褒められている、と言おうと口を開いて、待てよ、と思った。
言われてみれば、はるかは滅多に人を褒めないのだ。自慢じゃないが、誰よりもはるかといる時間が長いのは俺だと思うし、はるかの周りでまともなのも俺ぐらいだ(えっと、会長とかジョーさんを抜けば、だけど)。
そんなはるかがハルキを褒めた?うーん、確かにこれは大事件かもしれない。

「まっ、ミノルくんも頑張って褒められたまえ」

いつもと同じにかっとした笑顔をこちらへ向けるハルキにとりあえず無言でビンタしておいてやった。
何すんねん!ハルキの悲鳴を背中で聞きながら、別に褒められたいわけじゃないけど、と口の中で言い訳をする。

「…あっもしもしはるか?今から帰るけどなんか買って帰った方がいいもんある?…ない?…あっ、…そう…」

携帯をしまった俺の顔は、たぶん、拗ねた子供のようだと思う。



ぐつぐつ。
外は真夏の暑さでゆらゆらと陽炎を作っているのに、室内はクーラーで涼しい。しかしこの季節、晩ご飯が鍋というのはさすがにいただけないかも。
西川家で鍋の周りに四人で座り鍋をつついていると、ハルキが例の自慢話をまた始めた。
俺と違ってみのりはひとつひとつに嫉妬丸出しで反応するから、語る側も楽しいのだろう。

「ハルキ、あんたその話うちのクラスの人にもしたでしょう」

俺の分の白菜をよそいながら、はるかがキッとハルキを睨んだ。ハルキはそれに怯む様子もなくあっけらんと「内山だろ?あいつと仲良いんだよ、最近!」と嬉しそうに言った。

「そうゆうことじゃなくてえ、内山くんにハルキさんあんなに喜んでんだからもっと褒めてやれって言われたの!」
「お…おぉ…なんていい友人なんだ内山よ…」
「だからそうゆうことじゃないのっ!」

わたしがハルキに優しくしてないみたいじゃない!とはるかが半ば叫ぶように言えば、根っからのはるコンであるみのりが真っ先に反応して「そんなことないよ〜はるかちゃんは優しいよ〜」と頭を撫でた。お前はもっと弟に優しくせぇって感じじゃけどな。



夕食後、皿洗いをしながら考えた。こういうのは、褒められる対象じゃないよなあ…。皿洗いは当たり前の仕事だし、いつもやってるし今更褒められるようなことでもない。
じゃあ褒められるってどういうことなんじゃろう?
ハルキが今回褒められたのは、普段何も考えていない(少なくとも、日常生活の中では。やる時やる、って言葉はハルキやハルトのためにあると俺は信じてる)ハルキが自ら手伝いをしたからだ。
うーん…







「…ミノル、今日どうしたの?」

質問の意味が分からない、と頭を傾げる。
はるかはこれのことよ、といま俺が渡したいちごみるくの紙パックを指先で弾いた。

「いちごみるく嫌いだったっけ?」
「好きだけど、今日はいつにもまして…なんていうか、過保護っていうか…」
「そう?」
「ちょっとハルキみたいよ」
「やめてよ」

先に言っておくと、別にはるかに褒められたいわけじゃない。でもまあ、たまにはこうやってはるかを甘やかすのもいいかなーなんて…

「って、なんでこんな言い訳みたいなことしてんだ僕…」
「?」

とにかく!別に俺はハルキにライバル心を燃やしているわけじゃない!







「ミノルが変〜?」
「そうなのよ…」

はあ、とため息をつくはるかを手前に、あたしとハルトは目を見合わせた。

「なんというか、何時にもまして優しいのよ。荷物持ってくれるし、飲み物買いに行ってくれるし、代わりに提出物出しに行ってくれるし…」
「ミノルって割りとそんなんじゃねぇ?」
「いつにもましてそんなんなのよ!」

はるかちゃんは、おかげで今日はほとんど椅子から立ってないだとか、クラスの人に執事かホストか何かみたいだとからかわれたりするのよ、と逆にお疲れみたいだ。

「でも理由って言ったらさー…」

やっぱりあのことしか浮かばないよね、とハルトをみれば口の前に指を立て内緒のジェスチャー。
はるかはきょとんとしてるけど、やっぱハルトにはお見通しみたいだ。ミノルがこのバカルトに懐く理由が少し分かった気がする。

「まっ、しばらく様子見とけばいいんじゃねエのかな」

ハルトが頬杖をついてニヤリと笑う。はるかはますます分からない、という顔をしたけど、ごめん、あたしたちちょっと楽しんでます。







くっそ。
普段なら滅多に言わないような言葉を口の中で言い捨てる。
クラス全員分のノートを両手に抱え遥か遠い職員室へ続く階段を慎重に降りながら、俺はどうしてこうなったのか真剣に考えていた。
はるかに優しくすればするほど、今日の俺は何でもしてくれる、とかいう噂が知らぬうちにたったらしい。普段仲良くしてる人たちはもちろん、話したことのないような人でさえ俺に何かと頼んできた。でもはるかが見てる手前、もしこれを引き受けたらひょっとしたら…という考えが過って、何でもかんでも引受けてしまった。手元にあるノートと残った頼まれ事を思いながら、はるかに参加すると言っていた今日の生徒会ミーティングには行けそうにないと溜息を漏らした。

「ミーティング、どうしたの?来れるって言ってたのに」

結局、俺が生徒会室に辿り着いたのはあれから一時間後のことで、言われるまま担任に言われた雑用をこなしたあとのことだった。ミーティングはもちろん終わっていて、一応と覗いた生徒会室にははるかだけがぽつんとパイプ椅子に座っていた。

「はるか、まだいたの?」

俺が思ったことをそのまま口に出すと、自分の問いに対しての答えでは無かったからか、それともほかの理由があるのか、はるかはきゅっと顔をしかめた。

「ねえミノル。本当に今日どうしたのよ。いつにもまして無理ばっかり」
「 無理?それにいつにもましてって…」

驚いた。驚愕した。ハルキが褒められたことより何倍も。
今日の俺の頑張りは、はるかからしたらただの無理だったのか。しかもおれは、いつもそんなに無理してるように見えるのか。

「自分の時間を削ってわたしに飲み物買って来てくれたり、用事があるのに雑用ほいほい引き受けたり。いつもミノルはお人好しすぎだと思ってたけど…」

おかしい。こんなはずじゃなかった。

「今日は、特別変よ。」

どうもうまくいかない。

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