「はっ?それは無いよ」
「うそお、だってよく二人で歩いてるの見るし…」
「生徒会一緒なんだから、別に変じゃなくない?」
「でもー、なんか、そういうフツーのフインキじゃないんだよね」
「そうそう、先輩後輩の距離じゃないっていうかあ」
「あんな東さんの顔見たことないし」

目の前でお得意の恋バナに花を咲かせる同い年の女の子ふたりに、みのりはうんざりしていた。最近の女子高生ってやつは、男女の仲がいいだけで付き合ってる付き合ってないのタンジュンな関係に当てはめたがるのだろうか。

「じゃあ付き合ってないとしても、好きではあるんだよね?」
「東さんって結局さあ、大田会長と青木さんの弟くんとどっちが好きなわけ?」

彼女の言葉を聞いて、みのりは初めて二人が自分の名前を知っていることを確認した。あんな東さんの顔見たことないしー、っていうか、あたしがあんた達の顔見たことないしーって感じなんですけど。喉までかかった一言を飲み込む。いまここでみのりがわざわざ場を悪くしなくても、あと数分もしないうちにハルキが売店から帰ってくるだろう。

「はるかは別にどっちもそういう対象にしてないと思うけどなあ」
「思うって…青木さん東さんの親友って聞いたんだけど、なんか曖昧じゃない?」
「青木さんもよく知らないカンジ?」

青木さんはあんたらをよく知らないカンジでーっす。

「なんかあ、知らないなら知らないでハッキリしてくれた方がいんだけど」
「うん、若干めんどい。ほかに知ってそうな人とかいないの?」
「青木さんに聞けばわかると思ったのにー」

みのりは、そんなに怒りをすぐ表に出すような柄ではない、と思う。嬉しいときやさびしいときはぞんぶんに表現するけど、といいうよりは、みのりが怒りを抑え切れなくなるころには既に周りの短気バカ(Wハルハルとか)がみのりの代わりにキレている。
みのりはぎゅっとスカートを握った。なんでみのりがそんな言われ方しないといけないわけ。はるかのこと知らないくせに、テキトーなことばっか言わないでよね。てゆうか、あんたらそれ聞いて何したいわけ?弟くんって、ミノルの名前そんなんじゃないんだけど。……飲み込む一言がスカートの皺の数だけ増えていく。

「青木さんもさあ、ハルキともハルトとも仲いいじゃん」
「いいなあ、あの二人超カッコイーよねぇ」
「二人ともよくて選べないみたいになってんの?でもそういうのやめた方がいいよ」
「そうそう。早めに絞ってさ、ホンキだした方がいいよ。あの二人キープとか絶対無理だし。偏差値高すぎ」


「はあ?なんで、あんたが、はるかの事とか、あたしのこととか、適当なことゆっちゃってんの?」


「え?」
「いや何?いきなり何(笑)」


「あいつらのこと知りもしないで、勝手に語るなってゆってんの!」


顔の隣で、ツインテールがぴょこりと跳ねたのがわかった。悲しくなんてないのになぜか泣きそうだった。


はるかちゃんを、ミノルを、ハルキを、あたしの友達をバカにするやつはみのりが許さない。
大好きだから。
みのりはバカだしはるかちゃんみたいに何もできないけど、でもみんなのことが大好きだから。


「はいはいストップ!何やってんの、お前」
「みのり!どうしたの?」

スカートを固く握っていた手をはるかが優しく触れる。ハルキはみのりと女子AとBの間に入って、彼女らと何か話してるようだった。

「あいつらが…っ」

はるかのことを悪く言うから、って言おうとしてやめた。はるかは優しいから、彼女らに怒る前にきっと悲しむだろう。名前も知らないようなあいつらのためにはるかが悲しむ必要なんてない。
ハルキのことを名残惜しそうにちらちらと振り返りながら、女子ABが立ち去ったのを見てから、息をつく。


「……あいつらが、あたしのこと悪く言うから…ムカついたんよ」
「うそ、みのり自分のこと何か言われて怒ったりしないじゃない」
「う…今回は別!あいつらみのりがハルキとハルトが好きとかいうから!超フメンヨ!」
「不名誉ね」
「超不名誉!」
「オレかてフメンヨや!」
「不名誉ね」
「不名誉や!」

ハルキが買ってきた自分とあたしの分の午後ティーを机に置く。そうだ、まだおひるごはん食べてない。時計を見れば5時間目まであと10分もなくなっていた。くっそーあいつら!ホンマに許さん!!

「あれ、そういえばはるか何でここに?」
「売店で見かけたから拉致ってきた」
「拉致られた」
「ミノルは?」
「ミノルは置いて来た」
「はぐれた」

なるほど、とうなずくと同時にハルキの携帯が鳴る。はいはーい、そりゃオレの携帯なんやからオレが出るさ、いま?きょうしつー、え?ちゃうちゃうオレん教室やって…


「誰だったの?」
「ハルト。なんか今から来るって」
「ゲ!!ちょっと断ってよ」
「はー?無理無理、もう電話切ったったわ」
「役立たずが!くたばれ!」
「なんでや!」

いつも通り、あたしとハルキが午後ティーで応戦していたらはるかがあっと声をあげた。顔を上げれば嬉しそうにコンビニの袋を掲げるハルトとミノルが立っていた。なんか珍しいコンビだな。


「よっ!見てみて、ポッキー80円だったから買占めてきた!」
「てかなんでミノルと一緒?」
「そこで会ったから拉致って来た!」
「拉致られてきた」
「なるほど」
「でももう昼休み終わるし俺もう戻るけん」
「私も。次移動教室だったわよね?」
「おん」
「げー、もう昼休み終わるんかー」
「次科学だっけか?」
「ん。ちょっとみのり…あの…保健室、保健室行ってくるわ」
「あっオレも!」
「みのり待ちなさいどこに行って何する気?」
「ハルキ、オレもじゃねえよ何サボろうとしてんだコラ」
「いやホラ!食べ過ぎてお腹いたいから!ねっ?保健室…(チラッ)」
「オレはあれだって…あっイテテテなんか頭が痛い!(チラッ)」
「チラチラこっち見んな!俺に何求めとんか知らんけども!」

結局、変な所で真面目な崖っぷち副会長さんにサボりを阻止されたけど、あたしは幸せだった。科学の教科書を抱きながら、当たり前のように両隣にハルキとハルトが歩いているいまの状況について考えてみた。さっきの性悪女どもが言ってた、2人をキープしようとかなんとかは、やっぱり絶対まちがってる。あたしもこいつらも、あたしたち三人が一緒にいることに満足してて、きっと自分から2人になろうとするやつなんていない。
…あ、まさかのハルハルフラグについてはみのりは知らないけど。

「ねえ、今日放課後こないだジョーが言ってたお饅頭買いに行こうよ」
「奢ってくれんねやったらええよ」
「ハルトが払うよ」
「払わねーよ?」

これでいい。
あたしたちはこれが幸せなんだし。

「ま、とりあえずはるかのことを悪く言うやつはみのりが抹殺するよってことだよね」
「は?」
「みのりちゃん怖いわー」
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