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「アタシは出てきたら、セックスしないと栞に戻る気はないの。
責任持って、アタシの相手をして。キミがそれを出来ないなら、他の男を探すまでなのだけど」

そう言って壱を見つめると、彼女は挑発するように瞳を細めて笑った。

どちらかと言えば幼い顔立ちであるが、彼女の大人びた表情と雰囲気がその印象を打ち消している。

壱は深く眉間に皺を寄せたまま、無表情に彼女と視線を合わせて思考を巡らせていたが、とうとう笑みを浮かべて脱力した。

『…変な女だな、ほんと』

笑いを含んだその言葉を発すると、前髪で僅かに隠れた鋭い瞳がギラリと光る。

『脱げよ、俺もその気になった』

壱が薄い唇を歪めて笑うと、彼女は待ってましたとばかりに満面の笑みを見せ、飛びつくように勢いよく壱の首に腕を絡めて抱き着いた。

『うぉっ!?』

突如体重を掛けられバランスを崩した壱は、そのまま背中から床に倒れ込む。

『おっまえ、いてぇよ!』

壱の嘆きも聞こえていないのか、彼女は壱の躰を膝を立てて跨ぐと、ぷちぷちと素早くワイシャツのボタンを外して脱ぎ捨てた。

白く滑らかな肌を惜し気もなく晒し、曲線を描く括れた腰とは裏腹な、程よく肉付きの良い肢体が壱の前で揺れる。

「灯よ、キミは?」

グッと躰を倒して仰向けの壱に顔を近付けると、後ろに回した手でブラのホックを躊躇いなく外す。
ふわりと浮いた下着の下からふくよかな胸が露わになり、壱の胸板に柔らかな感触がのしかかる。


『……壱、成瀬壱だ』

「壱…、いい名前。アタシは灯。他の誰でもない」


佐倉栞の姿形で彼女はそう言うと、壱の唇にそっと自身の唇を重ねた。
触れただけの唇をゆっくりと離し、情欲に濡れた瞳が壱の顔を映し出す。

壱は真っ直ぐに灯と視線を絡めたまま、さらさらと垂れる艶めいた黒髪に触れた。


真実がどうであれ、彼女が栞でも灯でも、壱にはこの現状を楽しむ余裕が生まれていた。
少なからず、“灯”という女性に好感を抱いた。


彼女は壱が今まで見てきた女の中で、最も妖艶で美しい。
性に対する執着も、揺るぎのない自分自身への自信も。
壱を求める野性的な瞳を見つめ、彼は初めて自分が捕食される側である事を悟った。


そして不思議と、それが嫌ではない事も。


「アタシじゃ不満?」

『…いや、』

首を傾げて笑う灯に応えるように壱も薄っすらと口許に笑みを浮かべると、彼女の肩を片手で押し、倒された自身の躰を起こした。


『…充分だよ、灯。お前がいい』


床に座ったまま壱は灯の後頭部を掴んで引き寄せると、彼女の唇に食い付いた。




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