1.新年のご挨拶(過去拍手story)


特別short story
〜今年もよろしくお願いいたします〜
(2021年の過去拍手storyになります)





元旦。
西園寺家の執事である柏木葵の年明けの初仕事は、使えているお嬢様である雛への新年の挨拶から始まる。
コンコンという小気味よいノックの音を鳴らし、葵は雛の部屋のドアを開いた。

「雛さま、新年あけましておめでとうございます」

足を踏み入れたドアの前で挨拶と共に綺麗に一礼すると、葵はその端正な顔を上げて驚いたように僅かに表情を変えた。
普段は何事にも基本ポーカーフェイスを貫いている彼だが、この日は珍しく驚きが顔に出ている。

「あ!葵!あけましておめでとうございます!」

全身鏡の前に立っていた雛は葵の姿を認めるなり、嬉しそうに顔を綻ばせた。
ぱたぱたと小走りでドアの前に佇む葵の前まで行くと、にっこりと微笑み両腕を横に広げて見せた。

「どう?似合ってる?」

赤地に白やピンクの牡丹が描かれた振袖を身に着けた雛は、普段下ろしている栗毛色の髪を編み込んで後ろでまとめている。
振袖に合わせて右サイドにつけた牡丹の髪飾りは、華やかで新年の祝いに相応しい装いだ。
葵はまじまじと雛に向けた視線を上から下まで動かすと、考えるような素振りで顎に手を添えた。

「……七五三かと思いました」

「えっ!ひ、ひどい……!!」

「てっきり今年もまだ夢の中かと思っていましたが、これのために早起きしたんですか?」

七五三発言にショックを受けている雛は顔色を変えずに言葉を続ける葵を一睨みすると、ふて腐れたように唇を尖らせた。

「そうですよ、葵のこと驚かせようと思って島津さんに着付けてもらって待ってたのに」

「ああ、島津さんの提案ですか」

「うん、せっかくだからこれ着て葵と一緒に初詣に行って来たらって。でも七五三に見えるみたいだから、行くのやめる」

じとりと目を細めて恨めし気に葵を見つめると、雛はふいっと顔を逸らした。
苦手な早起きをして使用人の女性である島津(シマヅ)に振袖を着付けてもらったというのに、葵の反応ときたら見事に雛の期待を裏切った。
少しでも大人っぽくなるようにと、ほんのり化粧までしてもらったのに、だ。

「……拗ねてるんですか?」

「拗ねてません!」

そっぽを向いたまま力強くそう答える雛を見て、葵は口許に薄っすらと笑みを浮かべた。

「七五三は、冗談ですよ。雛さまがいつになく綺麗で驚いたので、意地悪を言ってみただけです」

「……それ、私が言わせたみたいじゃない?」

「いつからそんなに可愛くないことを言うようになったんですか」

「……葵のせいだもん」

小さく呟いて不満そうに眉を寄せる雛の顔を葵はそっと覗き込むと、ひんやりとした冷たい指先で彼女の頬に触れた。

「……可愛いですよ、誰にも見せたくないぐらい。私に見せるために着飾って下さったのですから、初詣はやめてこのまま二人で過ごしましょうか?」

整った綺麗な顔がすぐ目の前にあるだけでもどきどきするというのに、それに加えて甘い言葉を囁かれてしまっては、雛の頬は意思に反して瞬く間に真っ赤に染まった。

「ず、ずるいんだから、葵はいっつも」

「思ったことを口にしただけですよ」

「葵と二人きりは嬉しいけど……、私にも譲れないものがあるから。初詣は、一緒に行ってもらいます!葵の着物も島津さんに用意してもらったから、着替えて来て!」

「……私も着るんですか?」

「そうだよ、島津さんに着付けてもらってきてね。葵の着物姿なんて見たことないから、この機会は逃せないよ。絶対似合うから!」

瞳を輝かせて自分を見つめる雛へと、葵は僅かに困惑した視線を向けた。
とても断れる雰囲気ではない。

「……それも島津さんの入れ知恵ですか」

「素敵な提案でしょ!」

愛くるしい表情で微笑む雛の姿に、葵は観念して苦笑した。
この程度の事で喜ぶのであれば、最早断る理由もない。


「……ではすぐに着替えて、今年も雛さまのお傍にいられるようにと、祈願しに行きましょうか」




END



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