「あ、澄泣いてる」
瞳を潤ませる澄の顔を覗き込み、華恋は楽しそうに笑みを浮かべた。
「…ごめんね、ありがとう華恋」
溢れる涙を手で拭って、澄は眉根を下げたまま微笑んだ。
友達でいられなくなることを覚悟していた澄にとって、華恋の優しさが身に沁みる。
「ところで澄、まだ隠してることあるでしょう!」
唐突にぎゅっと澄の両手を握り、華恋は身を乗り出すようにして顔を近付けてきた。
あまりに突然の切り出しに、呆気に取られて彼女を見返す。
「隠してること…、あったかな…?」
「さっき礼たちって言ったよね?もしかしてだけど、C組の如月くんが関係してるのでは!?」
「あー…、C組の如月くん…って律のことでしょ?隠すって何を…」
「律って呼んでるってことは、やっぱり先輩と如月くんは血縁があるの?兄弟とか?」
「う、うん。律も私の幼馴染で、礼の弟だよ。あれ、知らなかった?」
「やっぱり〜!!」
きらきらと瞳を輝かせて、華恋は嬉しそうに笑った。
「似てる似てるって思ってたんだよね〜!苗字一緒だし、名前もなんか似てるし。でもC組の女子が如月くんに先輩と兄弟なのか聞いたら違うってばっさり言われたらしくて。ずっと気になってたんだよね」
にこにこと楽しそうに話す華恋の姿に、澄は何が何だか分からないまま呆然としていた。
「如月くんは何で先輩と兄弟ってこと隠してたんだろ?」
「さ、さぁ…?律は面倒くさがりだから、礼と兄弟って言って色々聞かれるのが嫌だったんじゃないかなぁ。礼、一年にも人気あるし…」
「なるほどね〜」
納得したように頷く華恋を見て、なんだかおかしくなって澄は思わず笑みを浮かべた。
真っ先に二人が兄弟かを確認してくるなんて、情報通の華恋らしい。
社交的で男女共に知り合いの多い彼女は、学校内の噂話からいろんな情報まで詳しく知っていたりする。
それでいて口が堅いところが友達が多いひとつの理由だろうなと澄は思った。
「あ、噂をすれば先輩が!」
華恋が指差す先には、渡り廊下を友人と歩く礼の姿があった。
楽し気に話しながら歩いていた礼は、ふとこちらに気付いたように中庭に視線を送った。
ベンチに座る澄と目が合い、自然と口角を緩める。
ほんの一瞬のことだったが、礼の穏やかな微笑に澄の胸はどきりと高鳴った。
遠ざかる背中を華恋と無言で見送りながら、どきどきといつもより早く脈打つ心臓に手を当てる。
「……ねぇ澄、今先輩こっち見て微笑んだよね」
「うん…笑ってたね」
「は〜、澄たち本当に幼馴染なんだね〜。かっこよかった〜」
華恋はそう感嘆の声を漏らし、うっとりとした表情で礼の通り過ぎた渡り廊下を見つめていた。