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午前中に一通りの準備を終え、午後からは前夜祭が行われることになっている蓮の学校では、昼食を食べた生徒達がそれぞれ体育館の方へと向かっていた。

「浅見、ちょっと一緒に来てくんない?」

秋歌と一緒に体育館に向かう為教室を後にしようとしていた蓮は、クラスメイトの柿谷(カキタニ)に呼び止められて足を止めた。
柿谷は普段蒼井と一緒にいることの多い男子生徒だ。蓮との絡みは然程ないが、性格は明るく、クラスのムードメーカー的存在でもある。

「なに、どこ行くの?」

「蒼井が前夜祭サボろうとしてるから、呼びに行こーぜ」

「えぇ〜、やだよ。なんでまた私…ほっとけば、来ないなら」

「冷たいこと言うなよ。俺が言っても絶対聞かないからさ、頼むよ」

「な?」と両手を合わせて頼み込まれ、蓮は唇を尖らせた。
まさかこんな迷惑を被ることになるとは。

「行って来てあげたら?前夜祭の出し物楽しいから、見ないの勿体ないし」

穏やかな口調で微笑む秋歌の言葉に、蓮は肩を竦めて頷いた。

「仕方ないなぁ。じゃあ、秋歌は先に行ってて。あの迷惑男を連れて来るから」

「ふふ、分かった」

「助かる、浅見!」

秋歌と別れて蒼井のいる三階小会議室に向かうことになり、柿谷の隣を歩きながら蓮は廊下の窓から一階を眺めた。
十三時から前夜祭が始まるからか、もう大抵の生徒は体育館に移動している。
蒼井を連れて走らなければ、間に合わないかもしれない。前夜祭に遅れて怒られるのは御免だった。

「ねぇ、なんで蒼井は小会議室なんかにいるの?」

「昼飯そこで食ってたから、そのままサボるって寝始めた。今文化祭の準備で荷物置きとかに会議室も開放されてるからさ」

「なるほど、ほんとに困った奴なんだから」

呆れつつもこうして呼びに来てくれる友達が蒼井にもいるのだなと感心していると、小会議室のドアの前まで来た二人は、がらがらと音を立てて引き戸を開いた。
部屋の窓際の方でパイプ椅子を並べてその上に横になっている蒼井を見つけ、蓮は溜め息をつきながら室内へと入って行く。

「蒼井、起きてよ!前夜祭始まっちゃうよ!」

寝ている顔を覗き込んで声を掛ければ、眉間に皺を寄せた蒼井が薄っすらと目を開いて煩わしそうな視線を寄越した。

「…なにしてんだよ、お前。来んなよ」

「なにそれ、せっかく呼びに来たのに…!」

「頼んでない」

「蒼井が頼んでなくても、私は頼まれて来たの!」

苛立ち混じりに言葉を吐き出し、自分を連れて来た柿谷の方へと振り返る。
小会議室の入り口前で立ったままの柿谷の姿に、蓮は怪訝な顔で首を傾けた。

「柿谷くんも、なんか言ってよ」

「ごめん…浅見!前夜祭が終わったら、また来るから!」

「え…、」

心底申し訳なさそうに柿谷が叫んだかと思うと、勢いよく小会議室のドアが閉められた。
廊下から柿谷が走り去る音が聞こえ、何が起こったのか理解できずに蓮は呆然とその場に立ち尽くす。

「え…、なに…?なんで行っちゃったの?」

「知らね」

寝そべった状態で興味なさそうに言う蒼井を一瞥し、蓮は慌ててドアの前まで走り、引き戸を開けようと取っ手を掴む。
鍵は中からも開け閉めできるが、閉まっている様子はない。
だと言うのに、ドアはいくら引いてもびくともしなかった。

「嘘でしょ…開かない…。閉じ込められた…、なんでぇ」




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