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言われた通りに職員室でプリントのコピーを済ませ、社会科準備室に戻る前に自販機に寄ると、数人の女子生徒と英語の女教師の里中(サトナカ)が談笑していた。

手短に里中に挨拶だけ済ませ、自販機の前で何を飲むか考える。

…大きいやつにして、飲み終わるのに時間がかかるようにしようか…。

そんなやましい気持ちでいる蓮の少し横で、気になる会話が聞こえてきた。


「え〜、ほんとですか〜?宮藤先生と付き合ってるって噂ありますよ〜」

「もぉ〜、だから何でそんな噂があるの。宮藤先生とは学校でしか顔合わせてないってば」

「またまた〜、外で二人でいる所見たって生徒いますよ!」

「う〜ん、それ絶対人違いだから」


筒抜けの会話を耳にして気を取られていた蓮は、思わず冷たいココアのボタンを押した。
よりによって通常より小さいサイズの飲み物である。

二重のショックに呆然としながら、とぼとぼと準備室までの道を歩く。
英語の教師の里中は、美人でまだ若い先生だ。
宮藤より年下である事は間違いなく、それでいて何となく大人の色気を感じる。
男子生徒に人気があるのも頷ける。

否定はしていたが、もし本当に宮藤と付き合っていたとしたら……?

蓮はぶるりと躰を震わせ、宮藤に今現在彼女がいないか確かめるのを忘れていた事に気が付く。
この手の話で、わざわざ嘘を付くタイプではないだろう。
況してや自分という、面倒な相手から熱烈にアタックされているのだ。
彼女の有無くらい、あっさり教えてくれそうだ。

「せ、せんせぇ〜…」

準備室に戻るなり、今にも泣き出しそうな声で宮藤を呼んだ。
出て行った時との彼女の様子の違いに、宮藤は面倒くさそうに眉間に皺を寄せる。

「なんだよ、情けない声だすな」

「先生は、里中先生と付き合ってるの…?」

「…はぁ?なんだそれ、付き合ってるわけねーだろ」

「ほ、ほんとに…?」

慌てて駆け寄って来て机に手を付いてしゃがみ込む蓮の姿に、宮藤は呆れて言葉を返す。

「職場恋愛は面倒だからしない」

「じゃあ、彼女はいる…?」

「…お前なぁ、あんな激しめのアタックしてきておいて今更そんな事聞くのか?俺は女に困った事はないが、浮気はした事がないんだよ。いたらお前に手なんか出さねーよ」

信用のおける宮藤の言葉に、蓮は一気に表情を明るくした。
その変化の早さとあまりの分かりやすさに、宮藤は苦笑する。

「犬みたいだな、お前は」

「……わん」

控えめに返事をすれば、いつになく穏やかな笑顔で頭を撫でられた。
それだけで堪らなく嬉しくなって、蓮はある筈のない尻尾をぶんぶんと振り乱した。


「先生、すきです」

「……知ってる」


その日で何回目かになる告白も、宮藤によってあっさりとかわされた。




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