やばい、部室に忘れものをしてしまった。
「!?」
部室に着くと、中から話し声がする。
キャプテンと…霧野先輩?
ダメだと分かってるけど、聞き耳を立ててみる。
「俺、ずっと前から神童のことが好きなんだ」
…知っていた。
霧野先輩がキャプテンのこと好きってことくらい。
キャプテンは気づいてないみたいだったけど。多分。
キャプテンの返事を聞きたくなくて俺は部室を離れた。
しばらくしてキャプテンだけが部室から出てきた。
ってことは部室には霧野先輩が残ってる?
おそるおそる入ってみると、
「ひっく……っ…」
霧野先輩が泣いていて俺は一瞬で状況を把握した。
「霧野先輩…?」
「…あぁ、狩屋か。お前に泣いてるとこ見られるなんてな」
涙を拭きながら笑って言う霧野先輩。
なに強がってんだか。
「キャプテンに、フラれたんですか?」
「聞いてたのか。…どうせまた馬鹿にしに「そんなわけないじゃないですか」
でも、霧野先輩がフラれてよかった、なんて思ってる自分もいて。
俺より背の高い霧野先輩が小さく見えた。
ぎゅっ
そして気づいた時には霧野先輩は俺の腕の中。
「先輩は…フラれてもキャプテンのこと、好きですか?」
なに聞いてんだ俺!
霧野先輩は少し驚いたあと、また笑顔になって、
「……あぁ、好きだ」
と言った。
ズキン
胸が痛んだ。
「フラれた先輩の気持ち、よくわかります」
だって、たった今俺もフラれたのだから。
「フラれるのって寂しいよな、だから………こうやって人に甘えてしまう」
"霧野先輩、俺じゃダメですか?"
その言葉を飲み込み、ただ無言で霧野先輩を抱きしめた。
先輩の涙が、俺の制服を濡らした。
言いたくても言えない。
否定されるのが怖いから。
このままの関係でいいんだ。
―――――